スペシャルウィークは落ち着けない
二時間後。スペシャルウィークとトレーナーは札幌某所のビジネスホテルへやってきていた。
今回の札幌遠征は二泊三日の余裕を持ったスケジュールで最初から行動しており、レース当日の札幌泊は規定事項だった。ただし、チェックインの時刻は当初の予定よりいくらか後ろへずれ込むこととなった。原因はもちろん言うまでもなく、シンボリルドルフが言い放った一言である。
『君は将来の生徒会長となるべきだと私は見ている』
正直なところ、スペシャルウィークはこの数時間の出来事が夢か何かなのではないかと未だに疑っていた。自分は今現実そっくりの夢を見ていて、目を覚ましたら本当の札幌記念が始まるのではないか……当然そんなわけがないと自分の理性が告げていたが、それでもそう思わずにはいられなかった。
自分が生徒会長? トレセン学園の生徒会長に?
なれるなれない、ありえるありえないの段階ですらない。少したりとも、一秒だってそんなことを考えたことはなかった。ましてやその提案をしてきたのは現生徒会長、あらゆるウマ娘の憧れにして模範のような存在、あのシンボリルドルフなのだ!
あの衝撃的な一言の後に、彼女はこう続けた。
『詳しい話はトレセン学園に帰ってからになるだろうし、今すぐにというわけではない。恐らくは一年以上先の話になるだろう。一先ず今は、そういう選択肢があるということを頭の中に入れておいてほしい。念のために言っておくと、私は真剣だよ』
思考はろくに回らなかったが、それでもスペシャルウィークはどうにか質問を形にすることができた。
『ど、どうして……どうして、私に? もっと他にすごい方が、私よりも向いている方が……』
『いない。断言するが、いない。君より生徒会長に向いている生徒はいないよ。今トレセン学園に在籍しているどのような生徒も、君よりは生徒会長に向いていない』
ここでシンボリルドルフは一度言葉を切り、トレーナーの方を向いた。トレーナーは無言で頷いて、続きを促した。
『足りないんだ、傲慢さが』
『……傲慢さ?』
シンボリルドルフの言葉に文字通りのオウム返しをするスペシャルウィーク。しかし彼女のことを責めはできまい。
『そうだ、傲慢さだ。重賞に勝つウマ娘は、特にGI勝利を当然のようにこなすウマ娘は、多かれ少なかれ傲慢さというものを必ず秘めている』
瞳を閉じながらシンボリルドルフは語り続ける。何かを思い出すかのような顔つきだった。
『名前を挙げるなら……そうだな、三冠を成し遂げ、怪物と呼ばれ、強敵に飢えていたブライアンは良い例だ。オグリも言うことなしだろう。クラシック登録の期限をとうに過ぎているにもかかわらず、会長の力でダービーに出してくれと正面から言いにくるような、駿足長坂たる様は評価に値する。そして私もそうだ。そんな彼女らをターフで叩き潰したのだからな。もっとも、二人には潰し返されもしたのだが』
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