青春を謳歌する系一般上位者
「フリス」
「やぁ、チャル。来たよ」
学校の屋上は解放されている。
高い柵はあるものの、風靡く爽やかなこの場所に、彼女は一人で佇んでいた。
「……フリス」
「うん」
「私ね、フリスのこと……」
言い淀むのは羞恥か。
少女らしい機微か。
──いいや。
「ずっと前から好きだったんだ」
「うん」
「お父さんみたいで、私達とは違う所を見ていて。……だからこれは、私の我侭」
「うん」
違う。一目でわかった。
彼女から感じるのは罪悪感の類だ。
「今から酷いこと言うね、フリス」
「いいよ」
「……私は今のフリスが、好きじゃない。……酷い事だと思う。この前、地上に降りて来たんだ。そこで、ある敵と戦った。その敵は、なんだろう、とっても悪い人だったんだ。沢山の人を殺して、私の仲間も殺して」
「うん」
「その上でその人は、私を大切だ、って言った。価値があるから大切だ、って」
「そうかい」
意気込んで。
飲み込んで。
「……フリスの目からは、同じものを感じる。今までは漠然と私達に向けてくれていた友情みたいなものが、違うんだ、って。明確な言葉にされて……わかった。フリスは、私達へそういう、価値とか、意義とか、そういうものだけを見てる。ううん、私達だけじゃない。道行く人も、先生も、お弁当とかアイスとか、そういうのでさえも」
「うん」
「だから……今のフリスから向けられる感情は、苦手。……でもね」
だろうな、という印象しかなかった。
たとえキューピッドに扮している時に声や重心移動なんかを変えていたとして、それで僕が何か変わるわけじゃない。フレシシはあんまりメンタル強い方じゃないからアモルの時とフレシシの時で切り替えているみたいだけど、僕は違う。
僕は常に同一だ。僕は常に平等だ。上位者として、だけど。
だから、相手の心理を読み取る能力に長けたチャルがそう感じるのも無理は無い。というか当然だと思った。
僕はそこで、つまらなさを感じていた。
そこまででは、だ。
「でも……その人とフリスは、明確に違うところがある」
「……それは、どんなところ?」
僕とキューピッドの違い。
無い。そんなものは。あるとしたら、あるように感じたら、勘違いでしかない。
だけど……僕は続くチャルの言葉に期待をしていた。
「あの人は、向かい風。私達を押し止めようとしてくる。常に前から私達を見ていて、立ち塞がる事で私達に期待をかけてる。でも、フリスは追い風。私達を後ろから押して、伸ばすことで私達……私に期待を寄せてる」
「どっちも風だね」
「うん。それで、どっちも暴風」
僕が風。なるほど、言い得て妙だ。
隣にいる時と敵対している時で、僕の心持ちに変わりはないと思っていたけれど。なんならそれはチャルの勘違いじゃないかと今でさえ思うけれど。
彼女の言葉に迷いはなかった。
探りながら喋っているわけじゃない。明確な根拠をもって話している。
それがとても、心地良い。
「ずっと前から好きでした。ちょっと前に、大好きになりました。……でも今、私の心は、あなたから離れてる。酷い事を言ってる。私は今、あなたに告白して、それで、その上で……好きになれない、って。そう言ってる」
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