ハーメルン
終末世界でガチ上位者が一般人やってる話
微笑みを浮かべる系一般上位者

 暗い地下を降りていく。
 ホワイトダナップはその性質上、地下というものを作るには様々な手続きを必要とする。この島は幾重もの層になっているので、倉庫区画や"秘密の区画"なんかに出てしまう可能性があるのだ。
 だからそうそうこんなに深い地下を作るのは無理なはず、だけど。

「……フリス」
「うん。人の気配がするね」
「わかるの?」
「地上にいた頃は、それができなきゃ死んでたから」
 
 地下一階は何も無かったが──地下二階。
 深度的にはまだ中層に入っていないものの、少しばかり冷えてきたその空間に、複数人の気配を感じた。まぁ僕の場合達人の言う気配を感じ取っているんじゃなくて、感知範囲に入った生命の存在を感じ取っているだけなんだけど。
 
「私が先に入る。フリス、」
「ああ、大丈夫。ああは言ったけど、人間相手ならある程度は対処できるよ」
「わかった」

 真剣な顔つきのチャルには悪いけれど、多分本命はこのフロアじゃない。何故ってフレシシがいないから。
 フレシシは……もう少し下だね。
 それじゃあ上には何があるんだって話だけど。

「っ!」

 一息でチャルが部屋に転がり込む。
 ……そして、息を飲んだ。

 暗い部屋だ。フロアタイルの敷き詰められた、部屋というよりは──独房に近い冷たさのある場所。いや、近い、じゃないか。
 部屋を区切るように嵌っている格子と、その中で襤褸布を纏い身を寄せ合う数人の男女。口には猿轡。
 僕やチャルを見る目は恐怖のソレで、彼ら彼女らの扱いも伺えるというもの。

「な……なに、ここ」
「誘拐してきた人間を入れておく部屋だろうね」
「なんでこんなこと……」

 恐らくというか十中八九この人間達は餌だ。機奇械怪に食べさせるための餌。要はウイルスの素。
 それにしても、牢が分けられているのは何か理由があるのかな。ふむ。人数の多い牢は餌だとして、人数の少ない……それも子供が二人入った牢は。
 特に目立った要素はない。体つきが良いとか、何かサイキック的なものを感じるとかもない。
 ふむ? 人間特有の意味のない男女への配慮とかかな?

「フリス、この鍵……」
「……うわ、これはまた古めかしいものを」

 パッドロック……対応する鍵じゃないと開かないタイプの、金属製の鍵。
 ダイヤルロックやデジタルロックさえも古風になりつつあるこの現代に、よくもまぁこんなものを持ってきたものだ。加えて雁字搦めの鎖、と。
 チャルが銃に手を伸ばさないのは正解だ。この人間達は凶器に対して強い恐怖を抱いているだろうし、パニックになられると面倒臭い。
 握り潰す、引き千切ることはできるけど、まぁチャルの前じゃやるつもりないし。

「チャル、今は」
「……うん。あの、ごめんなさい。今すぐに出してあげる事は出来ませんが、必ず助けます。これから上も下も、この会社の全部を壊してくるので……それまで待っててください」
「物騒だねチャル」
「フレシシさん助けに来ただけのつもりだったんだけど、ちょっと。……機奇械怪を使ってる時点で奇械士の攻撃対象だから、いいよね」
「良いと思うよ」

 絶対にダメだけど、良い。
 本来は警察に言うべきだけど、知らない。人間の法律はまだ勉強してないからなぁ。

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