一般人の命をなんとも思って無い系一般上位者
人工島ホワイトダナップは全長5.000㎞、幅5.488kmの巨大浮遊島である。
それゆえ端から端に行くまでには結構な時間がかかり、だからこそ奇械士を管理する組織『奇械士協会』、通称ギルドは島のほぼ中央部に位置する。完全な中央部でないのは中央に政府塔があるから。政府塔に寄り添う形で建設されているわけだね。
ただし、やっぱりこっちもだからこそ奇械士は出撃から現場到着までにそこそこの時間を要してしまうし、機奇械怪の発見も遅れる。
よって居住区域を守る奇械士は街中での武装が許可されていて、戦闘許可も通信一本で割合簡単に通る。それはある意味で弱さの証明──破壊性能や高火力が出せないから──にもなるから、どうしても居住区域の奇械士より島外作業員の奇械士の方が強いと思われがちだ。実際比率的にはそうなんだけど。
でも、奇械士の本懐は国防にある。
巨大な機奇械怪とヒーローのように戦うより、市民を襲う機奇械怪からその命を守る方が優遇されるべきだ。
それが現実そうならないのは、やっぱり報道が原因なのだろう。
「というわけで、チャルが気にする事じゃないよ」
「でも……アレキさんが悪く言われてるの、私、……色々考えちゃって」
話を現実に戻そう。
エンジェル出現の翌日、チャルは僕の家に来た。まぁ何も言わずに姿を消したからね、心配だったんだろう。
けれど僕はピンピンしていて、チャルにも、そしてアレキにも怪我はないということで。
銃の出所やあの時の言葉の意味なんかを聞かれたけど、何も答えなかった。答えなんか用意してないからね。
それから少しばかり日数が経って、突然チャルが僕の所に泣きついて来たのだ。
曰く、アレキが「調子に乗るな」「新人が口を出すな」と島外で活躍する先輩奇械士に言われているのを見て、思わず反論してしまいそうになった、と。実際しなかったのは、アレキに制されたから。
これについての答えは上述の通りだ。居住区域の奇械士はヒーローのような紹介がされない。どころか機奇械怪の被害が起きてからの出動になるため、ヘイトが溜まりがち。どれだけ迅速な対応をしても、だ。
チャルが気にしてどうこうなる問題じゃあない。
人間の意識改革なんてそう簡単にできるものじゃないし、できたとしても乗せられやすい数十、数百人。その上で全体の共通認識なんてどうせ変えられないのだから、気を揉む方が勿体ない。
「ところでチャル」
「なに……?」
「宿題、ちゃんとやってる? 奇械士の知識も勿論必要だけど、君はまだ学生だってことを忘れないでね」
「あ、大丈夫だよ。アレキさんが教えてくれてるし……。奇械士の方も、学校の方もね」
「へぇ。それは、まぁ、流石は最年少奇械士か。頭が良いんだろうね」
僕は一般上位者だけど、人間の細かいルールを勉強するのは正直面倒だな、とは思っている。機奇械怪の構造だとかの知識はあるから奇械士にはなれるだろうけど、知識人にはなれないんじゃないかなぁ。昔話ならできるけどね。
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