ハーメルン
大学生、上杉風太郎。インフルエンサーでホストやってます
第2話





一花と再会を果たした会合は夜通し続き、明け方にようやくお開きとなった。



食器やらグラスを片付け、満杯に詰まったゴミ袋を縛る。クラブを出てゴミ捨て場に向かう為に、早朝の歌舞伎町を歩き出した所で、ふと声を掛けられた。


「上杉君。ちょっといいかな?」


あ。と思わず声が出た。
途中から姿を消したので、一足先に帰宅したものだと思っていたアロハの髭男がそこにいた。

昨夜は照明が暗くしばらくの間は気付かなかったのだが、一花と一緒に来ていたこのアロハシャツの髭男は、一花の所属事務所の社長であり、俺とも面識があった。たしか妻と離婚した後、娘の菊を男手一つで育てている苦労人という設定を背負っていた筈だ。

彼は窓ガラスにスモークを入れた黒塗りの車から降りてきて、妙に芝居がかった調子でサングラスを外してウインクを送ってきた。こういう所は変わってねぇな…。

「昨夜はありがとう。一花ちゃんはまだ寝ているかな?」

「まだ熟睡してますね…すみません。調子に乗って飲ませすぎちゃって…。起こしに行きましょうか?」

「いや、いいんだ。どのみち今日はオフだ。お店の迷惑じゃなければ、気の済むまで寝かしておいてやって欲しい。ここだけの話、彼女は最近仕事のストレスなのか、殆ど眠れていないみたいでね。本当に久し振りなんだ。こんなに深く眠っている一花ちゃんは」

「は、はぁ。店が開くのは夜なので、全然構わないですが…その、逆に良いんですか?」

「良いのさ。彼女にも息抜きは必要だ。起きたら私に連絡する様にメールも入れておいた。…それより上杉君とは昨日はまともに話せなかったしね、どうだい?そこで一杯コーヒーでも」

クイっと何故か小指を喫茶店の方に向けて、俺に微笑みかける社長。外で待ち構えていた辺り、なにか俺に話でもあるのだろうか。

「…勿論、お付き合いします」

俺はゴミを捨て、社長と共に喫茶店に入った。社長は開店直後のまばらな客層をキョロキョロと見回すと、回りに人のいない隅の席に着く。

「やっぱり芸能事務所の社長ともなると、周囲の警戒しちゃいますか?」

「あはは。やっぱり分かる?最近色々と物騒な事があってね。少し過敏になってしまうのさ」

そう言って困った様に笑う社長。
その笑顔は、前に会った時より幾分雰囲気が柔らかくなり、そして少し老け込んだ印象を受けた。

「あーなんか…大変そうですね。芸能界って」

「ふふふ。君も人の事言えないだろう?クイーンから聞いたよ。君もSNSではちょっとした有名人になっているみたいじゃないか。それでクイーンにスカウトされたんだろう?」

「まぁ…そうですね。なんかフォロワー数多くてクイーンの目に止まった奴に片っ端からスカウトDMを送る事務所みたいなのがあって、何の偶然か俺みたいなのにも声が掛かりましてね」

「うんうん。クイーンの眼力はたしかだね。なにせ君には僕も以前から目を着けていた位だからね」

「あぁ。ウチのプロダクションに入る決心はついた?とか、あれ、マジで言っていたんですか?」

「大マジさ。今からでもどうだい?いや、むしろ今の方がずっと魅力的だね。以前より深みが増して脂が乗ってるよ君は」


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