ハーメルン
大学生、上杉風太郎。インフルエンサーでホストやってます
第2話

「人の事をそんなマグロか鮭みたいな表現しないでくださいよ」

ハハッ。と軽く笑い合いコーヒーを飲む。
久し振りに話したが、やはりなかなか話しやすいオッサンだ。

「いやー少し調べさせてもらったけど、面白い活動しているね上杉くんは。最近じゃ、地上波の番組から熱いラブコールを送られてるって聞いてるよ?」

「昔の知り合いがTV局内部にいて、そいつの権限で、体よく安い人材を使いたいってだけの話ですよ」

「いやいや、自分を軽く見てはいけない。頭が良いってだけじゃ出演してくれなんて話までは、なかなか行かないよ?華があるんだよ上杉君には。全くの無名から成り上がった覇気もある」

「褒めすぎですよ。本当に運が良かっただけなんですから。俺一人で始めた事でもありません」

「ん?協力者がいるのかい?」

「協力者というか———



——そう。切っ掛けは妹の撮った一本の動画であった。


家事上手の気配り上手。我が家の貧乏生活の家計を管理する気苦労を掛抱えているにも関わらず、腐らず明るく前向きな笑顔を失わない心の美しさを誇る我が妹、らいはであるが残念な事にあまり勉強ができる方ではなかった。

数学や理科などの術理があるものならともかく、英語や社会などの暗記力を問われる科目は、どうにも苦手だったのだ。

「お兄ちゃんはどうやって覚えたの?」
と言われて俺はそれぞれ名前を付けた自分の両手両指に担当分けさせて、そいつに覚えてもらうという俺の暗記秘奥義を懇切丁寧に教えたのだが、「お兄ちゃん、気持ち悪い」とのお言葉を頂き撃沈した。

だからと言って諦める訳にもいかず。
かと言って「ひたすらノートに書いて覚える」等という前時代的な教え方をしたくない。

———だから俺は歌ったのだ。ラップを。

渾身の熱唱であった。Youtubeで無料で学んだ韻踏みの概念と、小学生の心を鷲掴みにするプリキュアのバックビートに英単語とイカした和訳ジョークをリリックに乗せて妹の前で俺は三つ指を立てて踊った。

歌い始めこそ絶対零度の冷たい視線を送ってきたが——結果はバカウケだった。

「こんなお兄ちゃん一生忘れられる訳ないよ!」と汗だくで歌い切った俺に笑いかけながら涙を浮かべていた。

録画したいからとお代わりまで要求され俺は再び熱唱。翌日、万全の状態でテストに向かう妹を俺は送り出した。

テストの結果がどうあれ、いつもニコニコで帰宅する妹に珍しく、その日はなんとも浮かない表情で帰宅した。

「お兄ちゃん、どうしよう。ごめんね」

震えて消え入りそうな、らいはの声。
申し訳なさそうに俯いた顔を見て、俺は作戦の失敗を悟った。

なんだ…やはりあのラップ英語は役に立たなかったのか。心までラッパーになる為に金髪のウィッグを被りジーンズに穴まであけた馬鹿な兄の努力の甲斐なく、良い結果を出せなかった事を悔いているのだろう。なんて優しい子なんだ。らいは、違うんだ。俺が浅はかだったんだ。やはり別の暗記法を——



「お兄ちゃんの動画ね、バズっちゃったの…」


——————ん?バズ…?なんだそれは…


ピコン。ピコン。ピコン。

らいはのスマホの通知が鳴り止まない。

[9]前 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:2/7

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析