ハーメルン
大学生、上杉風太郎。インフルエンサーでホストやってます
第5話









「キンタローくん…?」


「あっ。スマセン…部屋間違えちゃいました」ピシャッ
















———トイレの中ってのは、聖域だ。
狭い個室。微かな照明。冷たい便座。ブルーレットの芳香剤が置いてあったら尚良いだろう。四方を囲む、たくましい硬さの壁に触る事で物理的に守られている事を実感できる。断絶された個室にいるという安心感は、テストの前の短いコンセントレーションを行うには最高の環境だ。あの全国模試の腹痛の時もそうだった。あの時もしトイレが埋まっていたら俺は全く別の人生を歩んでいただろう。トイレにさえ行けば、俺は無敵だ。どんなに絶望的な状況でも大丈夫。俺は出来る。そう強く念じる事で、いつも結果を出してきた。


———だから、今回もきっと大丈夫。




ピロン。


もういっそそのまま出てきなよフータロー君…。多分どっかのトイレか別の個室にでも隠れてるんでしょ?二乃と三玖が外まで探しに行こうとするの抑えるのも限界なんだけど…。私は諸々黙っておくから上手い言い訳考えておいてね。

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「無かった事にってのは無理があったか…」

あぁーくそ。三玖が無駄に焦らせる様な怖いLINEしてくるからだよ。訳分からなすぎて、着替えず焦ってそのまま来ちまった。

仕方ない。スーツなのはバーテンダーのバイトって事にして、金髪なのは酔った客に舐められない様にイカつい容姿にするのを推奨されてるとか適当な事をそれっぽく言うか…ホストだってバレるよりは軽傷だろう…。

実際『フータは色々経験をなさい』って事で水曜土曜はクイーンの命令で、別クラブのバーテン勤務に回されてるから、まぁ嘘は言ってないし。あぁーバイト先バレて冷やかしに来られるのとか嫌なんだけどなぁ。



『っす。ぐすっ。すんっ…ひっく』



ん?なんか隣?の個室から微かに声がするな。くぐもってよく聞こえないけど。
たまにこういう事あるよな。
駅のトイレで隣から「…んっ…来い…!…んん…かっ…!」って声だけ聞くと邪気眼っぽい台詞で踏ん張ってるオッサンとかいるわ。

俺は無駄にトイレの水を流して、はだけた白いシャツのボタンを一番上まで閉じて、カフスを付け直し、バーテン仕様にする。

手を洗い、ついでに顔も洗って軽くしてある仕事メイクも適当に落とし、鏡に映る6年前の金髪のクソガキの自分がそのまま成長した様な姿を、なんとなく。少しだけ見つめてから、俺は店に戻る為にドアを開けた———



——ガチャ。



カツッ…カツッ…カツッ…












「すんっ…ぐすっ…んで…なんで…?」
















「ぐすっ…ひっく…なんで…その言葉言われるの…私じゃないの…ぐすっ…ズルい…おかしいよ…私…私もう訳分かんないよ…どうしたらいいの…上杉さん…ぁぁあ…」

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