ハーメルン
大学生、上杉風太郎。インフルエンサーでホストやってます
第6話
チーン。ウィーン。
カッカッカッ…!
エレベーターの扉が開かれて現れた通路。
気づいたら、その先の小さな階段を私は駆け上がっていた。
——身体が、軽い。
なんでだろう。
上杉さんの言葉を聞いた瞬間から、まるで長い時間外れなかった重い鎖が壊れて、背中から羽根が生えたみたいだった。
理由なんか分からない。
ただ上杉さんの部屋の扉を開きたくて。上杉さんの顔を今すぐもう一度見たくて。
考えてる暇なんか無くて身体が動いていたんだ。
でも、それで良いんだ、きっと。
そんなの昔の私ならいつもの事だったよ。
「だって私バカだもん」
ガチャっ!
「う、上杉さん!やっぱり私お言葉に甘えて泊まっていっていいですか?—————って、キャァアアアア!!」
目の前に飛び込んできた光景があまりに想像と違い過ぎて思わず喉から出てしまう悲鳴。
「おい!近所迷惑だ!早く閉めろ!また壁ドンされちまうだろ!」
「だってだって!なんで裸なんですかっ!?」
リビングに上杉さんの上杉さんと上杉さんが仁王立ちしててもうどうなってるんですかこれ!?
「一人暮らししてから、家だと俺基本裸じゃん?」「知りませんよ!!」
一花じゃあるまいし、そんな癖あるのなんて知る訳ないじゃないですか!と言うか脱ぐのも早すぎます!上杉さんが見えなくなってから1分もかかってないよ!?
「とにかく!は、はやく隠してください…!」「へいへい。まぁこれでも飲んで落ち着けよ」
手近にあった薄手のタオルを腰に巻いて、水道水をコップに汲んでくる堂々たる姿におかしいのは私なんじゃないかと一瞬思ってしま…いや違うよ!私が正しいよ!?
「も、もうちょっとまともな格好してくださいよ…上杉さんは恥ずかしくないんですか?」
「慣れてるしなぁ」
「え?」「ん?」「慣れてるんですか?」
「この一年は色々あってな」
女の子や前で裸同然の格好でなんでもない様に言う上杉さんは、何故だかとても大人に見えまして、少女の様に騒いでしまった自分が少し気恥ずかしく思えてきました…。
「う、上杉さんが都会に染まってしまった…」
「なに言っているんだか。とりあえずお前がベッド使えよ。俺こっちで寝るから」
そう言って指した指先の方向を追うと、転がった2kgのダンベル以外にそこにはソファーも何もなくて…
「こっちってそれカーペットじゃないですか!?そんな悪いですよ!」
「気にすんな」
「気にしますよ!申し訳ないですから、や、やっぱり私帰りますね。い、勢いで来ちゃいましたし…あはは」
本当に気遣いもなく何も考えずに来てしまった自分が恥ずかしい。そうだよ、上杉さんはこういう気遣いを平気でしちゃう人でした。
貧弱な筋トレグッズに、ちょっとお高そうなカメラやマイクの繋がったノートパソコン。本棚に入りきらない色んな種類の本が平置きで高く積み上げられているのがとっても上杉さんらしくて、お部屋を拝見できただけでも嬉しいです。
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