第8話
不気味な夜の道を、俺たちは歩く。
足元が暗いので、有栖ちゃんの安全確保には普段より気を遣っていた。
しばらく歩いていると、どこからか大きな女性の声が聞こえた。
有栖ちゃんと頷き合い、俺たちは声の方向へ向かった。
「あのクソッタレ!死ねばいいのに!」
薄暗い公園。
そこでは、櫛田が我を忘れて暴れていた。柵やベンチを蹴り、暴言を吐き、奇声を上げる。
あぁ、これはひどい。放送禁止ワードが次々と飛び出す光景に、俺はドン引きしていた。
有栖ちゃんは笑みを浮かべたまま、櫛田の方へ向かっていく。
「どうも、こんばんは」
「……あ、ああっ………はぁ。何?」
「櫛田さんですよね?まぁ、わかっているのですが」
「あはは、こんなところでバレちゃうかぁ……で、どうしたいわけ?」
突然の声掛けに驚いたのか、櫛田は一瞬身体を震わせた。
そして、俺たちを威圧的に睨みつけてきた。
その眼光にも有栖ちゃんは全く動じず、どんどん距離を詰めていく。
「そうですね、櫛田さんの過去でもお聞かせいただけますでしょうか」
「それを言って、何の得になるの?」
公園には俺たちを除いて誰もおらず、驚くほど静かだ。
カツッ、カツッ、と杖の音のみが聞こえる。
「今のお話を録音していた、とでも言えばよろしいですか?」
「……そう、そうやって脅すんだ」
一メートルほどの距離まで接近し、有栖ちゃんは足を止めた。
「いえ、脅すつもりは全くありません。では、私が『堀北鈴音を退学させることに協力する』のはいかがでしょう?私も、彼女は気に入らないので」
衝撃的な発言。
その言葉に、櫛田は目を見開いた。
風が吹く。
「……わかった。話す」
そうして、櫛田は自分の過去を話し始めたのだ。
櫛田桔梗という人間は、承認欲求が強い。しかし、彼女は容姿こそ優れているものの、能力的には突出したものがない。俺からすると、見た目の良さでチヤホヤされるだけでも十分ではないかと思うが、櫛田にとっては全然足りなかったらしい。
それを補うため、櫛田は誰とでも仲良くして、自分を中心として歯車が回る環境を作り上げようとした。コミュニケーションの分野ならトップになれると考えたのだ。
容姿・性格ともに優れた櫛田は中学時代も人気者だった。しかし、本来の性格と全く異なる自分を演じ続けた結果、ストレスがどんどん精神を蝕んでいった。
そのはけ口として、櫛田は自らのブログに嫌いな人間の悪口を書き込むという手段を選んだ。
結果的にそれがまずかった。特定されて、立場を失う結果となったのだ。
その後、クラスの人間たちの集中砲火を受けるようになると、櫛田は握っていた秘密を全て現実で暴露した。そして、学級崩壊へ向かった……
まぁ、ちょっと規模が大きかっただけで内容自体はよくある話だ。
ネットリテラシーが無さすぎるのも含めて、中学生が起こす事件としては取り立てて珍しいものではないと思う。
ある意味、こうやって一人で暴れるのはその反省を生かしてるともいえる。
人間そんなもんだろ?と思っていたのだが。
「櫛田さん、よく頑張りましたね」
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