ハーメルン
戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~
スタッフロール後の話 前編
人気の少ない採石場にて相対する者達が居た。その先頭に立つ筋骨隆々とした男の全身を覆う真っ赤なタイツは人工筋肉が内蔵された『強化外骨格(ヒーロースーツ)』であり、色違いのスーツを装着した、背格好の違う4人の男女を率いていた
「シュー・アク!『ジャ・アーク』に残った幹部もお前が最後だ。これ決着をつける!!」
そう高らかに宣言した彼は、刃渡り1mほどの剣の切っ先を向けた。背後に待機していた者達も同じく、槍や銃などの得物を構えた。多勢に無勢であったが、シュー・アクと呼ばれた男は高笑いを上げながら応えた。
「よくぞここまで来た。残すは私一人のみ、先代の父の仇も含めてお前達を葬ってやろう!!」
「これでお前達の野望も終わりだ。この『エスポワール戦隊』が居る限り!お前達の好きにはさせないぞ!」
目の前の男性の全身がゴボゴボと泡立った。人間の骨格をベースにして、全身が膨れ上がり、その体は灰色の甲殻に覆われ、背中の皮膚を突き破り虫類の翅が拡がり、3対に増えた複眼は彼らの一挙一動を見逃さまいと睨みつけていた。
「来い!貴様らなど返り討ちにしてくれるわ!!」
背中に生えた翅が震え、耳障りな翅音が響いた。最終決戦を前に誰もが緊張する中。イヤホンを通して壮年の男性の声が聞こえた。
「お前達。絶対に生き返ってくるんだぞ!」
「司令官……。勿論だ、皆で生きて帰る!」
司令官の激励を受け、彼らは最後の戦いに臨んだ。その激戦は数日に渡り繰り広げられ。結果として、エスポワール戦隊は誰一人として欠ける事無く、悪の組織の殲滅に成功し、人々はその活躍を讃えた。
~~
「こうして、エスポワール戦隊は15年間にわたり『ジャ・アーク』と戦い。彼らを撃退して、我が国『皇』の平和を守りました。その後、彼らは解散してそれぞれの人生を歩むこととなり…」
寒さも厳しい中。『大坊乱太郎』は車中でランダム再生していた動画の音声で目を覚ました。頭を掻きむしるとフケが落ち、汚らしい髪が揺れた。
「……あ」
楽しい夢を見ていた。自分の全身に活力が漲り、毎日が充実していた。エスポワール戦隊のリーダーを努めていた頃の話だ。
世界を支配しようとする悪の組織『ジャ・アーク』との戦いに身を投じていた頃は、皆が自分を必要としてくれた。自分達は暗雲立ち込める世界の希望の象徴だった。
「おぉ。兄ちゃん、起きたのか」
「おはようございます。ケンさん」
車を停めていたすぐ近くの公園にはブルーシートが張られていた。そこには薄汚れたジャケットを羽織った年老いた男性達が屯(たむろ)していた。
「最近、ここらじゃホームレス狩りも出るらしいし。兄ちゃんみたいな良い身なりしたやつは襲われるかもしれないから気をつけろよ?」
「ありがとうございます」
男性に挨拶を交わした後。大坊は車にキーを掛けた後、街中を歩くことにした。財布にはロクに金も入っていなかった。
~~
「(1年前。俺達『エスポワール戦隊』は悪の組織『ジャ・アーク』に打ち勝ち、それぞれの道を歩み始めた……なんて。ナレーションが入れば、気持ちよく締められたんだろうが)」
解散した後の彼らのその後と言えば、暗澹たる物だった。突如として現れた悪の組織なる物に対して設立された『エスポワール戦隊』は、対外的な武力を持たないと言われている『皇』の在り方に反する物であった。
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