ハーメルン
戦隊ヒーローのレッドは戦いが終わって無職になったので、これからは自分の正義だけを追求する ~ヒーローは日常へと帰れるのか?~
ヘンシン 3
翌日。芳野は先に出ていき、剣狼も事務所に向かうつもりだったが。彼は台所の上に、彼女が持っていくはずだった弁当箱が置かれている事に気付いた。
「(忘れたのか。持って行ってやるか)」
勿論、彼は芳野の通う学校の住所など知らなかったが、狼としての能力。即ち嗅覚を使う事で、その足跡を辿り始めた。事務所に向かう予定もあったので、染井組長のお下がりを着用した上で学校へと向かった。
身なりが整っていた事が幸いしてか、周囲から怪訝な視線を向けられることはなかった。臭いの元である学校まで辿り着いたが、校門は固く閉ざされており、表に立っていた警備員の二人が声を掛けて来た。
「失礼ですが。この学校の関係者でしょうか?」
「いや。芳野の奴が弁当を忘れて来たから、持って来ただけだ」
「そうですか。分かりました。私達が預かっておきます」
二人は差し出した弁当箱を受け取った。それを確認すると、彼も去ろうとしたが、門前から見えた光景を見て、足を止めた。
「……おい」
「まだ何か?」
「あそこから誰かが飛び降りようとしているが、大丈夫なのか?」
彼が指差した先。教室の窓から身を乗り出していた生徒が何かを喚いた後、飛び降りた。暫時、嫌になる程の静寂に包まれた。
警備員達は慌てて駆け出し、剣狼も駆け付けた。グラウンドで蹲る生徒は朦朧としているのか、何かを呟いていた。
「ヒーロー達に……殺される……」
その言葉に剣狼が反応した。警備員達が連絡を取る中、彼もスマホを取り出して、登録しているアドレスをタッチした。
「おい。芳野か? 俺だ。今、お前の学校に来ている」
~~
生徒が飛び降りた為、担任や教師達は事情聴取に出向き、1時間目は自習となった。空白になった時間を使い、剣狼は芳野と会っていた。
「ケンさん。どうしてここに?」
「お前が忘れた弁当を届けに来たんだが、気になることが出来た。飛び降りた奴が『ヒーローに殺される』と言っていたが、アレはどういうことだ?」
「それは……」
芳野が言い淀んだ所で。くぐもった笑い声が聞こえて来た。その方向を振り向くと、猫背で眼鏡を掛けた顔色の悪い少年が姿を現した。
「芦川の奴は自分達の罪深さに耐えきれなかったんだよ。染井さん」
「日野君」
「何か知っているのか?」
「あぁ。アイツらは一人残らずエスポワール戦隊に裁かれる。そうしたら、このクラスに嫌われ者は居なくなるからね。クヒヒヒ……」
卑屈な表情と雰囲気を醸し出しながら、彼は男子トイレへと入って行った。その言葉を受けて、改めてその説明を乞う様にして。芳野に視線をやった。
「日野君は、芦川君や武田君達のグループにイジメられていたんです」
芳野の話によれば、何処の学校でもありがちな出来事だと言っていた。ハッキリと喋らず、陰気でオタクな日野は恰好のターゲットだった。
相手の事を配慮しない弄りや、彼が読んでいるライトノベルを取り上げてクラスの皆に大声で読み上げたり。全国で行われているであろう、極平凡な迫害行為が行われていたという。
「なるほど。エスポワール戦隊はそれを見逃さなかったと」
「はい。いじめっ子グループの一人が昨晩、自宅で全身を複雑骨折した状態で発見されたそうです」
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