ハーメルン
STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】
『戦慄の暗殺者Ⅱ ~Stairway to Hell~ 』




【1】


 スタンド、スタープラチナに垂直の軌道で真上に投擲されたシャナは、
まるで獲物に襲いかかる隼のように双眸はただ一点のみを凝視していた。
 全身に掛かる重力を振り切る、絶息の空間疾走。 

『オメーは 「上」 だッッ!!』

 先刻の言葉。
 シャナは、 その言葉にもう一度だけ心の中で頷いた。

(ウン。 「下」 はおまえに任せた。
だから、 ()()()()任せて……!)

 屋上全域に張り巡らされたフェンスを抜けたシャナは
そこで黒衣を翻して軽やか反転、
尚も直上に向かおうとする力の矛先を換え
華麗に宙返りを打って屋上の路面に手をついて着地した。
 真新しいコンクリート、 遠間にたくさんの空調機器や大型の給水タンク。
 その、 開けた空間の先――。
 自分の3倍以上の規模と密度を誇る
巨大な “封絶” の中心部に、
長身細身の男が白い存在のオーラを靡かせながら片膝を抱え
純白の長衣を気流に揺らしながら悠然と宙に浮いていた。


【挿絵表示】


「こんにちは。 お嬢さん」

 甘い耽美的微笑をその口元に浮かべ、
今目覚めたかのように気怠い瞳と口調で男はシャナに言った。

「初めまして、 だね。
アラストールのフレイムヘイズ “炎髪灼眼の討ち手”
私は紅世の王、 その真名 “狩人” フリアグネ。
以後御見知り於きを」

 フリアグネと名乗った純白スーツの美男子は、
幾重も躰に巻き付いた長衣の裾を静かに揺らしながら
屋上の路面へと軽やかに舞い降り、
相も変わらずの気怠げな表情と幻想的な雰囲気のまま、
パールグレーの頭髪を緩やかに靡かせシャナの方へと歩み寄る。

「……」

 周囲を警戒する事を忘れずに、
同じようにフリアグネへと歩み寄ったシャナが
その男の声とはまた対極の凛とした声で訊き返す。

「おまえが、王? 
2日前私たちにチョッカイを出してきた、
燐子達の主?」

「その通りだよ」

 純白の貴公子は悪びれもせずに
そう言って肩を竦め、そして厳かに瞳を閉じる。

「私の、 この世で何よりも大切な “マリアンヌ” に、
随分酷い事をしてくれたらしいね? 
全く、 どう(くび)り殺してくれようか?

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