『悪霊に取り憑かれた男と炎髪灼眼の少女』
【1】
成田新東京国際空港。
巨大な機体の轟音が何度も空間を交錯する。
多種雑多な人々が行き交う空港ロビーで、
清楚な服装に身を包んだ壮麗の淑女が大きく手を挙げた。
「ここよ! パパ!」
その静粛な声に、初老の男性が振り向く。
しかしその体格は老齢のそれではなく、
見上げるほどの長身に加え
全身は鍛え抜かれ引き絞られた筋肉で覆われていた。
ソレに合わせる様に服装も、
古代遺跡の探険家を想わせるワイルドなスタイルである。
「ホリィ! おいどけ!」
偶然二人の間に入ったスーツ姿の男に肘鉄をくらわせ、
初老の男性はホリィと呼んだ女性の元へと駆け寄る。
「パパァ!」
淑女はまるであどけない少女のように、
父親である男性の広い胸に飛び込んで抱きついた。
父である彼もその力強い両腕で愛娘を優しく抱き留める。
そして、しばし周囲の目など気にせず互いにはしゃぎながら
数年ぶりの親子の再会を喜び合う。
しかし、淑女は突然我に返ったかのように顔を曇らせると、
「カバン、持つわ」
先刻の (劇的とも言える) 再会に罪悪感でも抱いたのか、
足早に空港を去ろうとした。
その彼女に父親が問いかける。
「ところでホリィ? 我が孫の “承太郎” の事じゃが、
たしかに、 【悪霊】 と言ったのか?」
「!!」
父の口から出た “ 承太郎 ” という名前にホリィの足が、
その場で硬直したように止まった。
そして張りつめた氷が溶けるように、
美しい瞳に透明な雫が溜まっていく。
「ああ! なんてことッ! 承太郎ッ!
他の人達には見えなかったらしいけど、
私には視えたわ……!
承太郎のとは 『別の腕』 が見えて……
それで……それで……!」
ホリィの脳裡に甦る、一昨日前の変わり果てた姿。
愛息は薄暗い牢獄の中、全身血に塗れた姿で
こちらと目を合わせようともせず、ただ俯いていた。
なんとか懇意在る 『財団』 の協力を得て、
傷害事件の「正当防衛」は認められたのだが
それでも最愛の息子は頑なに牢獄から出る事を拒否した。
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