プロローグ
「追い詰めたぞ!」
薄暗い空間の中に、異形の姿とそれと対峙する三つの人影があった。
「グヌウ、しつこい奴らめ」
「しつこいのはお互い様だろ」
「もう逃げ場はない。大人しく観念しろ!」
ビシィッと指を指しながら、三人のうち一人が異形へと向け言い放つ。
声の感じから、三人共男性であるとは分かるが、逆に言えばそれ以外は分からない。
「クソ、かくなる上は!」
「何をする気だ?」
しかし異形は観念するどころか、懐から何か装置のようなものを取り出すと、それを掲げた。
「この次元転送装置を使うまでよ!」
「何だと!?」
異形の言葉に三人は驚くが、その隙にも異形は装置を起動させ、不思議な光が装置から溢れ出した。
「グワハハッ!これで俺は貴様らでも追っては来れない別の次元へと逃亡させてもらうぞ!!」
「クソっ!?」
勝ち誇ったかのように異形は高笑いを上げる。装置からは光とともに強烈な風が吹き荒れ、それにより男達は異形を止めることができずにいた。
「うおおおおっ!!」
否。一人だけ、強風を物ともせず異形へと駆け出す姿があった。
「シンジっ!?」
「逃がすかああっ!!」
「何ィっ!?」
男は駆けた勢いのまま跳び上がると、そのまま異形へと向かい、己の右足を突き出した!
「喰らえっ!!」
「グオアッ!?」
飛び蹴りを食らった異形は吹き飛び、その手から落ちた装置が地面へと落ちた。
「ば、バカなああ……!?」
蹴り飛ばされた異形は断末魔の叫びを上げることなく倒れ込むと、木っ端微塵に爆発四散した。
しかし次の瞬間!
「う、うおっ!?」
地面へと落ちた装置から放たれた、一際眩い光が辺りを覆い尽くし、それにより男の姿が全く見えなくなってしまった。
「……シンジ?」
光が収まった時。そこには二人の人影と、爆散した異形の肉片しか残されていなかった。
◇
舞台は変わって、とある世界。
まもなく日が沈む時間に、森の中の馬車道を一台の馬車が通っていた。
「ふぅ……今回の仕入れも無事に終わったな」
「あとは学院に着くのを待つだけですね」
荷台に積んだ荷物を見ながら、二人の人間が話している。一人は男性、一人は少女。見るからに年の差があり、そういう関係にも見えないが、仲はいいようである。
その後も二人は他愛もない会話を続けたが、突然馬が止まってしまった。
「おっと、どうしたんだ?」
「マルトーさん、あそこに人が!?」
少女が指した方向を見ると、確かに道の先には一人の男が倒れていた。
二人は馬車から降りて男の元へと駆け寄った。
「おいアンタ、大丈夫か!?」
男は気絶しているようで、問い掛けても呻き声しか帰ってこない。
このままにしておけないと、二人は男を馬車へと乗せた。
そして―――
「おやっさん!追加のチキン焼き上がったぜ!」
「なら次はあっちを手伝ってこい!」
「はいっ!」
とある学院の厨房に、右に左と忙しく働く新顔の青年の姿があった。
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