ハーメルン
魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る
2.4.真紅の鎧
黒と白の鎧は、内部の着装者の治療を試みつつも、装甲の外で起きていたその事態を観察していた。
真紅の槍を手にした、真紅の鎧。
真紅の鎧が、背後に尻餅をついていたファリーハの方を向く。
「え……!」
ファリーハは、やや身じろいだ。
真紅の鎧は右手を、胸の高さまで掲げる。
すると真紅の兜の表面が、何もない虚空に
解
(
ほど
)
け出た。
赤い装甲の一部がその形状を失い、赤く細いリボンのようになってゆく。
プルイナたちがそれを拡大すると、文字か文様を思わせる複雑な形状が組み合わさってできていると分かった。
リボンはしゅるしゅると動いて、ファリーハに絡みついていく。
「え、何ですかこれ……」
「大丈夫、心配いらない」
鎧の中から聞こえた声は、女のものだった。
真紅のリボンが解けるにつれて、彼女の体の、鎧で覆われている面積が減ってゆく。
プルイナが音声を発し、真紅の鎧の女に問う。
『待ってください。あなたは誰ですか?』
「ホウセ」
彼女が短く名乗ると、兜の部分が解けきって、顔が現れた。
黒髪をうなじのあたりで切った、まだ若い娘だった。
見たところ、年頃については幼いと言っても過言ではないかもしれない。
ホウセと名乗った娘は、言葉を続けた。
「今は急ぐ。すぐに説明するから、悪く思わないで。飛ぶ力は残ってる?」
彼女の質問に、プルイナとエクレルが、それぞれ音声で答える。
『問題ありません』
『飛行は可能だ』
「なら、このまま付いてきて」
真紅の鎧の一部が真紅のリボンとなって、ファリーハの全身に絡みついていた。
ホウセは真紅の槍にまたがると、そこからファリーハを吊り下げる。
ホウセのまたがった槍はそのまま、空高く浮かんでいった。
廃港から飛び去る彼女を追って、黒と白の鎧が飛ぶ。
ファリーハは、いつの間にか付近一帯に深い霧が立ち込めていたことに気づいた。
ファリーハは、霧の中を飛んでいた。
正確には、真紅の鎧の娘・ホウセに、槍から吊るされながら飛んでいる。
真紅の魔術紋様のリボンが、彼女の肩から腰まで巻き付いて、槍と繋いでいるのだ。
紙1枚にも満たない薄さに見えるが、強度は十分あるようだった。
頭上のホウセに、訊ねる。
「あの……少し良いでしょうか?」
「どうぞ。説明するって言ったしね」
「まずは助けていただきました。ありがとうございます」
そっけなく答える彼女に礼を言い、再度尋ねた。
「私はファリーハ・クレイリークと申します。あなたはホウセ、でしたね。なぜ私たちを助けてくださったのですか?」
「人間に見えたから」
「今はどこに向かっているのですか?」
「そのうち分かるよ。大丈夫、悪魔のいないところだから」
「……それなら、いいのですが」
疑うというよりは、信じがたい心持ちだった。
ファリーハは、旧世界のどこかに生き残っている人類がいるはずという希望を持ってはいた。
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