ハーメルン
魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る
2.7.悪魔の巨大化
ホウセの家の、ゴミ箱。
血と土埃で汚れきっていたファリーハの官服は、その中に廃棄されていた。
本来なら、このままアウソニアの廃棄物回収事業に引き渡され、処分されることになるものだ。
だが、そこに何かがいた。
繊維の隙間に挟まる、ダニやシラミのように小さな何か。
いや、虫ではない。ゴミでもない。
それは、自らを魔術で縮小した悪魔だった。
衣服の生地を構成する、細い繊維と繊維の隙間に入り込めるまでに自らを縮小するのは、骨が折れた。
万に一つも発見されてはならないのだから。
だが悪魔は、繊維の隙間から這い出て、確信した。
(正しかった! 人間どもが逃げる先に、人間の巣があるという見込みは!)
悪魔の名は、ラフケト。
ラフケトは、繊維の中から感じていた。
天井に輝いていた巨大な光球。
あれこそは魔宝――魔術の力の塊である。
己の力をいや増し、魔王へと献上するのに相応しい供物となる。
今、それは光度を落とし、熱量を落としつつある。
そしてラフケトは今、その存在を誰にも気づかれていない。
あの赤い鎧の魔術師にもだ。
狙うなら、この時であろう。
四本の腕で繊維の隙間から抜け出し、ゴミの入った箱を飛び越える。
扉の隙間に潜り込み、外へと滑り出た。
少しだけ縮小を解除し、小さなネズミほどの大きさになると、速度が上がった。
魔術紋様で照らされた薄暗い道を進み、階段を登って、人工太陽のある農業階へと躍り出る。
そこは、ほとんど暗闇だった。
魔術紋様を使用したささやかな街灯のようなものはあるが、人工太陽はぼんやりと輪郭が見えるかどうかといった程度だ。
だが、十分な広さがあった。
ここならば、問題なく元の大きさに戻り――さらに巨大化することもできる。
先端がハサミのようになった4本の腕と、細い円錐のような2本の足、1本の尾。
夜間の照明用の魔術紋様が、ささやかな光でその足元を照らし出していた。
ラフケトは呪文を唱え、魔術を行使した。
「我が身よ……拡がれ!」
全身を魔力が駆け巡り、膨張する。
広がる巨体のほとんどは、星あかりすらない暗闇の中に溶けていった。
人工太陽は、触手のようなものが無数に生えた巨大な球体の形状をしていた。
それは、表面に緻密に刻印された魔術紋様の力で動いている。
魔術紋様の作用で、新たな魔術紋様が刻印される。
新たな魔術紋様が、更に新たな紋様を刻印する。
一方で、古い紋様から力を使い果たし、消えてゆく。
その循環の際に発生した余剰のエネルギーが、光と熱となり、地下世界アウソニアを照らしていた。
今、人工太陽は休眠していた。
地下世界にも、夜をもたらす必要があるからだ。
しかしそこに、下方から何か、巨大なものが接近しつつあった。
人工太陽は異常を検知し、再び作動を始めた。
即ち、それはアウソニアに予定外の昼が訪れることを意味する。
急激に輝きを増した人工太陽が、
狭隘
(
きょうあい
)
なアウソニアの大地と、そこに立ち、巨大化した悪魔ラフケトを照らす。
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