ハーメルン
魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る
1.4.疑念の渦中
その邸宅は王族用ということで、転移・転送の魔術を防ぐための最高級の紋様が建材に施されていた。
外見からはうかがえないが、物理的にも魔術的にも、堅固な造りになっているという。
更に地下室があるので、そこを使用することで、安全性がより高まるということらしい。
地下室は食料などの備蓄倉庫になっていたが、それでも5人が入って会話をするには十分なスペースがある。
その上室内用のガス灯が設置されており、護衛の魔術師が操作して点火すると、室内が明るく照らされた。
護衛の魔術師は1人がファリーハの側。
もう1人が入り口に立って、警護を続けている。
鎧の着装解除を許可されて、ディゼムとアケウはようやく全身を空気に晒すことができた。
2人はしゃがみ込み、うめいた。
「ふー……やっぱ開放感あるな……」
「そうだね……さほど窮屈ではなかったとはいえ」
黒い鎧と白い鎧は独立して人型に戻り、直立不動の状態でたたずんでいた。
眼光が点滅して、それぞれに言葉を発する。
『それでは、改めて説明を。ファリーハ』
『我々が従事するという、旧世界奪還計画とやらについてな』
「では4人とも、そのあたりの椅子に腰かけて、楽に聞いてください」
4人とは、護衛の魔術師を除いたディゼム、アケウ、2領の鎧を指しているようだった。
『我々の重量では椅子を破壊する危険がありますので、このままで結構です』
『続けてくれ』
「では……」
ディゼムは椅子を引っ張り出しつつ、アケウはたたずんだまま、説明が始まった。
「旧世界奪還計画は、本来もっと時間に余裕を持ったものでした。異世界からの救世主の召喚に成功したなら、それを中心とした戦力を編成し、旧世界奪還に出撃する。あるいは、数年に渡って召喚を繰り返し、更に戦力を拡充するということも考えられますが……今のところは、旧インヘリト王国の領土回復。願わくば、悪魔たちが人類に害をなせないようにすることを目的としていました。
しかし、現在の王国の置かれた状況は変わってしまいました。昨日の魔王――旧世界を滅ぼしたという悪魔の首領らしき存在が、この国にやってきた。本来なら島の外は海軍が、島の中は陸軍が守っているにもかかわらず、です。150年の間に整えた防衛網は、全て無意味だったと言ってもいいでしょう」
ディゼムたちにも思い当たることだった。
警備にあたっていた陸軍は魔王の襲来を予期することすらできず、大聖堂への直接の侵入を許している。
こうして王女と共にいる彼らは知らないことだったが、陸軍では警備が全く無意味だった点が問題視されていた。
「その上、昨日の戦いでは、あなた方も魔王の言葉を聞いたそうですね。自分は“影”だ、と。つまり本体にして、はるかに強力であろう真の魔王が、まだ生きている。これを事実と仮定するなら、我々はすぐにでも島の外に逃げるか、打って出なければなりません」
ファリーハが護衛の魔術師以外の全員の顔を見回して、続けた。
「私や政府の議員、高官たちは、魔王が報復に来るのであれば、インヘリト王国がこの島で防戦するだけでは、滅びる可能性が高いと見ています。なにせ我々の祖先を150年前にほとんど絶滅させた、悪魔の軍勢を率いてくるでしょうから。よって、旧世界に部隊を送り、異世界の鎧の力を中心として悪魔を撃退する。可能であれば、魔王を探し出して殺害する。そうすることで悪魔たちの軍勢を弱めるか、インヘリト王国から目を逸らしめることが考えられているわけです」
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