ハーメルン
湖の求道者
Fate/Apocrypha 外典にて踊る■の雛

 ―――――――――――――日本の繁華街の路地裏を、ホストのような風貌の男が一心不乱に走っていた。
 その整った顔立ちを自身の様々な汁にまみれさせ、盛大に青ざめながら歪ませながら。

 男の名は相良豹馬。
 とあるモノを象徴に掲げ、魔術協会からの離反、独立宣言を行ったユグドミレニア一族の一人である。

 かつて、冬木と呼ばれる街で執り行われていた、七人の魔術師と英霊たちによる聖杯戦争と呼ばれた魔術儀式。

 しかし二次大戦の最中、ナチスドイツの手を借りてとあるマスターが聖杯戦争の舞台装置『大聖杯』を強奪したことで儀式は終了した。
 結果、聖杯戦争の術式の一部が拡散し様々な小規模聖杯戦争、亜種聖杯戦争が多発するが────。

 ナチスドイツからも大聖杯を隠匿し、60年間隠し続けた件のマスター────ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアが大聖杯の所有を表明。
 魔術協会である時計塔からの一族の離反を表明、奪った大聖杯による聖杯戦争でもって宣戦を布告した。

 聖杯戦争のシステムによる、七騎対七騎というかつてない規模の戦争。
 斯くして、ルーマニア・トゥリファスを舞台に空前絶後の規模の戦争────『聖杯大戦』が勃発した。

 そう、彼は聖杯大戦に於けるユグドミレニア側のマスター()()()
 今夜はその最重要過程である、英霊召喚の実行に移す夜。
 彼の一族が継承してきた魔術は暗示や潜伏、諜報など地味な方面に特化しており、他の魔術師からは『ネズミ』と呼ばれていた。

 実際に彼はそれをコンプレックスにこそしているが、それは紛れもない事実だった。
 サーヴァントが14人存在することで大聖杯からのバックアップが半分になっている今回の聖杯大戦では、ジャックの信仰面での弱さも相まってサーヴァントの召喚すらできないほど脆弱な、まさしく二流の魔術師である。

 三騎士やライダーの様に高位の英霊が召喚されやすいクラスではなくアサシンのサーヴァントの召喚を狙ったのも、自身の力不足を考慮してのこと。
 また、情報の少なさを重要視してジャック・ザ・リッパーが実際に使用したとされるナイフを触媒に用意し、召喚に挑まんとした。

 だが、それでも不安はあった。

 故に故郷の日本にて実際にジャック召喚の可能性を最大限に高めるため、その凶器を使ってジャック・ザ・リッパーの犯行現場を再現しようとした。
 一般人の女を、生贄にしようとしたのだ。

 日本式の呪術系統と西洋の魔術が混合された代償(いけにえ)を利用する魔術系統。
 人命を代償に建築物やあるいは人命そのものの安全を確立させる搾取型の防護魔術の使い手だ。
 人を生け贄に捧げるのに、躊躇などなかった。

 その結果────彼は今、一心不乱に逃げ出すように走っている。
 その手にはマスターの証したる令呪は、無い。

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