閑話 難易度を上げていくスタイル
とある秘境に存在する、美しい城の中。玉座の間へと続く道を歩く白髪の貴族然とした男が、本来非常に整った顔を盛大に腫らして歩いている。
“原液持ち”の死徒である彼が、顔を腫らす事自体が極めて異常なのだが。
そんな男を待っていたかのように壁へもたれ掛かった、十二歳ほどの少年が男の腫れた顔を見て明らかな嘲りの笑みを深めながら、声をかける。
「やぁトラフィム。随分御機嫌斜めみたいだけど、その様子じゃあ君も返り討ちにあったみたいだね」
「黙れ! 次こそはこの屈辱、必ずや晴らしてくれるッ!!」
白髪の男の瞳にあるのは憎悪の一言。
そして頭に浮かぶのは、原住民の一部も呑み込んだ数万の死徒の軍勢を気軽に蹴散らし、執拗に男の顔面を蹴り続けた黒い剣士。
その場で生き残っていた死徒全軍を足止めに徹させて命からがら逃げ延びたが、彼の高かったプライドは嘗て無いほどにズタズタである。
そんな様子を解りきって居ながら、煽るようにその脅威を示す名を少年は口にする。
「で、あの『黒』は出たかい?」
「……ッッ!」
「あははははっ! その様子じゃ辛酸舐めさせられた訳だ。アレだけボクを馬鹿にしてたって言うのに!」
最初はただの趣味だった。
古今東西の秘宝コレクターである少年が、ブリテンの宝剣宝具を欲したのが始まりだった。
彼は彼の『左腕』と『左足』によって送り込んだ死徒を囮にし、その財宝の是非を確めようとしたのだ。
「……でもまぁ仕方無いね、幾らなんでもアレは無い」
が、地上から人間では視認不可能な遥か上空に居たというのに、地上のランスロットに斬られたのだ。
何より剣とは間合いが全て。
剣を振るわないこの少年でも、それぐらいは理解している。
本来、魂に刻まれた復元呪詛がとっくに傷を癒している筈なのだが、不可解な事に傷の治りが普通の人間の様に遅い。
まるで、神秘を否定するかのように。
流石に少年もその理不尽さには恐怖した。
かつて神だった彼が言うのも何だが、常識と言うものを知らないのかあの男は。
そしてその事を聞き付けた、自分より早くに『我が君』の従者になったこの白髪の男は少年を侮蔑し、少年の目的としていた宝物を少年の『我が君』に献上するのだと意気揚々と出陣していき──────、この様だ。
滑稽だと笑いたくもなるが、それ以上にその人間の国を危険視した。
「で、調べは付いたかい?」
「……あぁ」
現れたのは三人目の化物。
先の二人とは違い、半人半鳥という明らかな異形の姿をしていた。
しかし異形の口からは少年に向けた負の感情を隠すことの無い、流暢な言葉が出る。
余裕のあるランスロットが彼を見たら、心の中で確実に「ガッチャマーンッ!!」と叫ぶだろう。
「『黒』の名はランスロット。奴等の国で最高の騎士との話だ。なんでも、フランスを根城にしていた『王』の出来損ない諸君が、一匹残らず狩られたらしい。また攻めるのならば気を付けたまえトラフィム」
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