9.彼は魔除けです
翌日。
登校してすぐに生徒会室へと向かった。
家を出る直前に、真由美に『エガリテ』関連の報告書を送ったことによる呼び出しである。
随分と性急だと思われるかもしれないが、今日の放課後から一週間、部活動の新入生勧誘期間が始まることになっている。まさに『エガリテ』にとっても『掻き入れ時』と言えるのだ。
生徒会長としても、十師族の一員としても、早めに話を聞きたいと思うのはおかしなことではない。
「失礼致します」
生徒会室には真由美と克人だけではなく、摩利もいた。
『三巨頭』勢ぞろいという一般生徒ならば緊張するであろう状況でも、咲宗は特にビビることなく自然体で中に足を進める。
「おはよう、風火奈君。朝早くにごめんなさいね」
真由美が申し訳なさそうな顔を浮かべて挨拶する。
妙に馴れ馴れしさが増したような気もするが、達也への接し方を考えれば、もはやこれがこの人の平常なのだろうと理解することにした。
摩利は初対面であるため、好奇心全開の視線で咲宗を見ていた。
咲宗は真由美に一礼して、その次に摩利にも頭を下げる。
「おはようございます。お初にお目にかかります、渡辺風紀委員長。1-Aの風火奈咲宗と申します」
「渡辺摩利だ。よろしくな」
「十文字会頭もおはようございます」
「ああ。早速で悪いが改めてお前の口から聞かせてもらえるか? ホームルームまであまり時間もないからな」
「そうね。お願いしてもいいかしら?」
「もちろんです」
急かしているようだが、全員この後授業が待っている。
咲宗は今日から授業が始まるので、いきなりサボりは避けたいと思っていたので正直ありがたかった。
「昨日調査したところ、二科生の2,3年生の中に反魔法国際政治団体『ブランシュ』の下部組織『エガリテ』のシンボルであるトリコロールのリストバンドを身に着けている生徒が複数名確認出来ました。これについては先輩方もすでにご承知のことだと思います」
「……ええ。そして、何の手も打てていないというのが現状よ」
『ブランシュ』『エガリテ』の存在は政府の方針で情報規制されている。
それは国立教育機関である第一高校も例外ではなく、十師族も無視できることではない。
更には危険な思想に染まっているからとは言え、犯罪を犯しているわけではない生徒を排除するわけにもいかない。
法律で『思想の自由』が保証されている以上、それだけで排除したらそれこそ連中の思うつぼだ。
故に真由美や克人でも手を拱いている。
厄介なのは浸食を受けているのは二科生であるというところだ。
つまり、国から才能ありと認められた一科生を僻んでいる者達ということだ。
それは指導員達にも当てはまる。
なので、真由美達や教師達がどれだけ差別はないと訴えかけても、聞き入れてもらえず悪化するだけの恐れがあるのだ。
服部や森崎のように魔法力至上主義の者も少なくないのも拍車をかけている。
真由美達は一科生二科生の差など大して気にしてはいないのだが、下にいる者達からすれば、それは『持っている者の余裕』『持っている者の同情』と見えるのだろう。
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