「――へぇ、ここって副料理長が管理してたんだ」
「はい、曜日と時間によりますが、こうしてヒッソリとやらせていただいています」
――ナザリック地下大墳墓の副料理長。
茸生物という種族で、綽名はピッキー。
彼は普段は食堂で料理長と共に腕をふるっているが、ショットバーをイメージして作られた部屋でこうしてバーのマスターとして過ごす時もある。
今日も今日とて、ゆったりとグラスを磨いていたところ、数少ない常連のエクレアが珍しいことに新規客を連れてきた。
1人はあまり見かけない、上層の階層守護者であるシャルティア・ブラッドフォールンという名の吸血鬼の少女。
そしてもう1人は、よく見かけるファースという名のメイドだった。
「ピッキーってエクレアに呼ばれてるの? 私もそう呼ぼうか?」
「お好きにどうぞ」
ファースがカウンターの椅子に座りながら、グラスを磨く副料理長に聞く。
正直いって、ピッキーという綽名は気に入ってはいるので、呼ぶ者が増えるのは困ることではない。
そしてバーのマスターとして相応しい返答をした。
「エクレアがいつも世話になってるんだって? 大丈夫? 何か失礼なことしてないこのペンギン?」
「ちょっと待ちたまえ、何故この私がピッキーに無礼を働くと思ったのかね?」
「だってお前、無駄にカッコつけたがるし。カウンターの上でグラスを滑らそうとして割ったりしてるんじゃない?」
「…………」
ファースの一言で、彼女の隣に座っているエクレアが完全に沈黙する。
要するにこれは、図星というやつだ。
「いえ、彼には良い話し相手になってもらっているので、こちらとしても有り難いですね――ただ、これ以上グラスを割られるのはご遠慮してもらいたいですが」
ピッキーは少し不満気な声色で言った。
要するにこれは、本音というやつだ。
「――なぁエクレア、今まで割ったグラスの数だけお前の髪の毛抜くのはどうだ?」
ファースはそう言って、隣に座っていたエクレアを拾い上げるように持ち上げ、自らの膝の上に乗せた。
――エクレアにとってそれは、死刑執行台に座らされるのと同じだった。
「や、やめたまえ! この金色の髪は私の造物主から頂いたもの! たとえ君でもそれを奪うことは断じて――触らないでぇ!」
ファースはいじめっ子のように、エクレアを膝の上で弄ぶ。
エクレアにはたまったものではないかもしれないが、側からみれば仲むつまじい友人のような戯れ合いのようにも見えた。
実際、ピッキーはそう感じた。
だからこそ、疑問が彼にはあった。
「――お2人はどういうご関係なのですか?」
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