ハーメルン
国民的大物女優観察記録
第三話


9


景の奴がスターズのオーディションを受けたらしい。
スターズは言わずと知れた大手プロダクションで現在人気がエゲツないことになっている百城と同じ事務所だ。
今回のオーディションは三万人も応募があったらしい、やはり有名どころは規模が違う。

そんなスターズのオーディションだが、景はなんと最終試験まで残ったのだとか。
景は超が付くほどの美人であるし演技が凄いので意外ではない。

景の演技はなんと言えばいいのか、一瞬でまるで別人の様になるのだ。憑依と言うべきかそんなレベルだ。
たまに感情がリセット出来ないと言って映画を見て感情を思い出す。あれがどんな感覚なのか俺には想像もできないが、ああいう人間を天才と言うのだろう。
百城もあれだけ人気なことから天才の一人なのだろうが、それとは別のベクトルに振り切れている。

あんな人間そこら中にぽんぽこ生まれる訳がないし、当然最後まで受かると思っていたのだが結果は落選。
緊張で上手くできずに失敗するタマでもないし、セクハラしてきた審査員でも殴ったのかと心配したがそうでは無いらしい。

「バカでも分かるように演じたのに落ちたわ」

景はそう言っていた。
スターズの審査の基準はよく分からないが、多分景よりもっと凄い奴がいたのだろう。やはり芸能界はとんでもない連中が集まるのだ。恐ろしい。

景が受ける前、俺は百城に連絡して「カメラや他人からどう見られているのかを四六時中考える」というアドバイスを聞き出したのだがやはり彼女はとんでもない連中の筆頭だ。
それをそのまま伝えても助けにならないので「とにかく頑張れ」という当たり前のことしか景には伝えられなかったが。

百城はそれを誇張でもなく本当にやってのけるのだから今の活躍があるのだろう。
この前家に行ったらゼリー飲料片手にずっとパソコンを開いてエゴサをしていてちょっと怖かった。そんで全部数字としてまとめているのだという。いやほんとにすげぇわ。俺だったら発狂しているかもしれない。

流石に百城の身体が心配なのでおにぎりを握った。
そこで一旦休憩するとばかり思っていたのだがよほど集中していたらしく、俺が百城に食べさせろと言ってきやがった。流石にそんなことをするのは長い付き合いでも初めてだからこっちは心臓バクバクだったのに百城はパソコンに相変わらず集中していた。
そういう所だぞと俺は言いたい。
今までに何人の男が泣いてきたのだろう。俺の予想では百を超えていると見た。





「────おねーちゃんは役者にならないと! おにーちゃんもそう思うよね!?」

そう言ったのはレイだ。レイとルイ、そして景の三人は今さっき風呂から出たばかりで頬が赤くなっている。
俺はバイトの帰りに夜凪家に寄らせてもらい夕食をご馳走になったのでこの場にいる。

急にどうしたのかと思ったが、どうやら景が入浴中にいきなり泣き出したらしい。
しかもその理由が不合格の悔しさではなく「悲しみの感情が残っていた」なのだとか。確かにこいつもちょっと怖い。

景は役者になるべき才能を確実に持っている。が、オーデションに落ちてしまったのだからどうしようもない。
高校を卒業したら景は就職する予定らしい。
俺は夜凪さんが亡くなる前に病室で「レイとルイを立派に育てる」と約束していたのを立ち聞きしたことがある。

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