第三話
彼女はその約束を守るために今までやってきたのだ。そして彼女の行動の優先順はこれからも変わることはない。本当に偉いと改めて思う。
レイの気持ちも分かる。レイは役者ではない夜凪景が怖いのだ。俺を含めた一般人はコロコロと別人みたいに変わることはない。
役者ならばそれが長所になる。この前こっそりレイは俺にそのことを言ってきた。俺もその考えには共感する。
だがレイには悪いが俺は景側につく。やはり下の子二人を育てるにはどうしても金が必要なのだ。それに絶対に芸能界で金を稼げるようになるという保証もない。
「えっ……おにーちゃんの裏切り者! もう嫌い!!」
そう言ってレイは頬を膨らませながら俺からそっぽを向く。
こっちを向いてと言っても向いてくれない。どうやら嫌われたらしい。ショックで湯呑みを落としてズボンに茶が溢れる。熱いが我慢してレイに謝り続ける。
「あー。おにーちゃんがレイを怒らせた」
「まずお茶を拭きなさいよ」
景が風呂場からタオルを持ってきてくれた。さっそくズボンを下ろして下半身を拭く。
湯呑み半杯分という結構な量をこぼしてしまったためズボンはびしょ濡れだ。帰るまでハンガーとか借りれるだろうか?
「……その前にここで脱がないでよ!」
景にそう言われた。
……失敬、女子の前だということをすっかり忘れていた。そっぽを向いていたいつの間にかレイはこちらを向いている。
顔を両手で隠しているが指の間からチラチラ見ている。
「露出狂よ ! スケベ! 変態!」
やめてくれレイ、小学生から変態扱いは心にくる。
というかレイとはルイと俺と一緒に三人で風呂入ったことあるし、景は市営プールとかで俺の海パンを何回も見ているから今更ではないだろうか。もしかしてそういう問題ではないのか。
「うおー! おにーちゃん脚の筋肉すごっ!」
ルイは超笑顔だ。お茶で赤くなった太ももをペチペチと触る。
十年弱の間スポーツで鍛えた、密かに気に入っていた部位なので筋肉を褒められるのは嬉しいが、このままでは俺は小学生男子に脚を触らせた本物の変態になってしまうので夜凪家に置いてある予備のズボンを急ぎ履く。
危ない、あと三秒遅かったら景の拳が出ていた。
「命拾いしたわね」
そう言って拳を下ろす景。本当に危なかった、目がマジだ。
それはそうと、景はどんな仕事をするのだろうか。
景は器用だし体力もある。どんな仕事だってこなせるだろう。俺の同級生には高校卒業してそのままJRに行った奴とかいた。それかやはり今のご時世公務員が安定だろうか。
……いっそのこと景は美人だしマイチューバーとかどうだろう?自宅でできるし。
ちょっと際どい服でサムネを撮って商品紹介とか。いやこれ以上考えるのは止めておこう。人として越えちゃいけないラインだ。本当にすいません夜凪さん。
「……公務員。良いかもしれないわ」
勉強もできるし景なら試験は問題ないだろう。もし必要とあらば俺が教えることも出来る。
その時、レイが欠伸をした。目も微睡んでいる。
時計を見れば八時半、いつもより帰るのが遅くなってしまった。もう帰宅しなくては三人に悪い。
濡れたズボンをポリ袋に入れ、バックに詰める。もう帰る旨を景に伝える。
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