ハーメルン
百城千世子を生で見たい、なんなら喋りたいし触りたい
プロローグ
お父さんが星アリサと話す。砕けた感じではあるから現役時代に話したことがあるんだろう。そして俺の事情を星アリサは知っているようだ、そしてそれの確認と試験を兼ねて、俺に演技をさせるようだ
「そうね………じゃあボク、"悲しみ"で少し演じてくれないかしら」
悲しみ、アクタージュ1話で夜凪がやっていた演技だ、確かあの時夜凪は立ち振舞いだけで悲しみを演じていた。演じるというか本当に悲しみの中にいたのだが
「わかりました」
さぁ、思い返そう、今までの悲しみを
どれにしようか、それこそこの前見た「火垂るの墓」の清太でもいいし、「クレヨンしんちゃん」あたりでも良い
だが俺の人生で一番悲しんだのはアクタージュが終わった時だろう、その時を思い出す、追体験する、それが俺の出来る一番の悲しみのはずだ
「っ!」
星アリサが驚いた顔で俺のことを見ている。空気が変わったことに気がついたのだろう
俺は別に泣いているわけじゃない。パッと見てわかるような演技をしていない
だが悲しみの中にいる、深く深く悲しんでいる、もう見れないという悲しみと絶望、少しの怒り、まだ嘘であってほしいと願う僅かな希望、それらを体験している
「もう……いいわ」
星アリサからそう言われた。早くないか?まだ30秒も経ってないぞ
「……あなた、何をしたの?この年でこんなことが出来るなんて!」
その言葉は俺に向けられた物でなくお父さんに向けられていた
「何も、何もしていない」
「っ!」
「俺らが何か教えたわけじゃない。独学でここまでしている」
星アリサの顔が驚きに染まっていく、確かに小学生がメソッド演技で完璧な悲しみを演じたら怖いだろう。どんな人生送ってきたのか気になるはずだ
「私は反対よ、この子はきっと役者に成っても幸せになれない」
「そんなことない」
やべ、つい口に出ちゃった。これは原作でも夜凪に対して言っていた言葉だ、いつか不幸な役者を産み出さないのが目標のスターズなら、幸せになれない役者など入れるわけにもいかないだろう
だか知ったこっちゃない、こちとら百城に会いたくてここまでやってるんだ、それこそが俺の幸せであり、そのために頑張ることも幸せなのだ、他人にとやかく言われる筋合いはない
百城のことは省いてそう伝えたら彼女はかなり迷っているようだった。自分のように成ってほしくないという気持ちと俺のさっきの言葉が演技じゃないことが解るから迷っているのだ
「…………いいわよ」
彼女は迷った末にそう言った
「ただし、さっきの言葉を何時でも改めていいから」
彼女のそのセリフは驚くべきことだ。実質、彼女は俺に対して何時でも辞めていいと言ったような物だ、経営者として、社長としてその言葉はとてつもないことだ、メソッド演技はそれほどに危険なんだろう
「ありがとうございます」
そう答えた俺は泣いていた、悲しみが残っていたのだろう、それに気づいた星アリサが少し顔をしかめて涙をぬぐってくれた
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