CASE-3 恥辱の開花
翌朝、京介が目覚めた時には既に時刻は朝の9時を回っていた。トレーラーの外では既に誰かしら活動を開始していたのか、ガヤガヤと騒がしくなっている。起き抜けに顔を洗って歯を磨き、久々に柔らかい寝床で眠れた所為か凝り固まった身体を伸ばして解しながら京介は外へ出た。
日の光が差し込む工場の中で、何人かの黒の騎士団のメンバーが備え付けのクレーンを使用して闘技場から回収したグラスゴーの両腕を取り外している。青く塗装された機体が一瞬自分が乗っていた機体かとも思ったが、その思考は横から投げかけられた言葉に中断された。
「よく眠れた?」
振り返れば、そこに居たのは昨日水を入れてくれた女性だった。その手にはプラスチックのプレートに載ったおにぎりと小分けにされた卵焼き、水のペットボトルがある。その腕に下げたビニール袋には、紙皿や箸が入っているようだった。
「久々にぐっすりと、世話になります。朝飯ですか?」
「そうよ、そろそろ起きることだろうと思って。これから中に運ぶけど、貴方の分だけ取り分ける?」
「出来れば」
そう言うと、女性は昨日京介が腰掛けていた空コンテナにプレートを置いて紙皿と箸を取り出し、一人分の量を取り分け始める。そこで京介は漸く、昨晩置きっ放しにして忘れていた軌道の煙草が女性の足元に転がっているのを見つけた。
「朝からKMFの整備なんて、精が出ますね」
等と言いながら煙草を回収し、京介はプレートが除けられた空コンテナに腰掛ける。紙皿の上にはおにぎりが三つ、卵焼きが二切れ、後は水だ。女性は再びプレートを両手に持っていて、トレーラーに身体を向けながら京介に答える。
「今は少しでも戦える力が欲しいから。KMFが一機あれば、それだけ生身で戦う負担が減るもの」
「そういうものですか」
「ええ、後で中にあるお味噌汁も温めて持ってくるわ」
「すみません」
そう言って女性がトレーラーの中に消えると、京介は一先ずおにぎりを一つ掴んで口に放り込んだ。鮭の身と塩味が効いた美味いもの。その次に齧った卵焼きも甘すぎる気がしたが、それでも十分美味しかった。ブリタニア人の母の料理はどうしても向こう側の味付けが多く、嫌いではなかったが、かつて父に連れられたヒロシマの祖父母の家で食べた味の方が気に入っていたことを京介は思い出した。その後、温め直したみそ汁を紙コップに入れて持って来てくれた女性------井上と名乗った------から受け取り、京介は久方ぶりに安寧に塗れた無垢な朝食を得る。やはり、赤味噌より白味噌の方が好きなのは変わりないようだった。
そうして腹ごしらえを終えた後は、普段の癖で煙草に火をつけて咥えたまま、整備されているグラスゴーの傍へと近寄っていた。既に右腕は取り付けられていたが、左腕の結合部に異常があるのか眼鏡を掛けた男が大柄な男と何かしら言葉を交わしている。他には機体の足元に居る青い髪をした男が、強奪してきた修理用のパーツの幾つかを選定していた。ジッと機体を見上げている京介の姿に気づいたのか、声を掛けてきたのは青髪の男だった。
「よお、おはようさん。しっかり眠れたか?」
「おはようございます。御陰様で」
「そいつぁ良かった。ところでこのグラスゴー、どんな奴が乗ってたか分かるか? 左腕部の損耗だけ激しくてさ、接続部は問題無いんだけど……腕の方は丸ごととっかえた方が良くてさ」
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/8
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク