CASE-7 鎧付き
浦城京介にとって、新しいKMFに乗り替わるということは非常に面倒な事であった。左利きということが災いし、より機体を自分の手足の感覚に近づけるには、デフォルトで設定されているモーションパターンや火器管制システムの設定を全て反転させた上で調整せねばならないからだ。勿論本来の仕様のまま操縦することも可能だが、そんな妥協をして死んでしまうのは馬鹿のやる事だと思っていた。更に今回京介を躍起にさせたのが、廻転刃刀と呼ばれる新しい装備の存在だった。これは巨大な日本刀のような形をしているが刃の部分がチェーンソーとなっており、加速をつければKMFを一気に両断出来る優れものだ。しかし、逆にこれが厄介だった。
グラスゴーではスタントンファ、無頼ではナックルガードとほぼ腕を振るう形で使用出来たこれまでの武装とは違い、廻転刃刀は手に持って使用するタイプの装備だ。左右問わず使用出来たこれまでの装備とは違い、明確に手に持って腕を振るう様に扱う動作が必要とされる。京介は刀の扱い方は幼少期に父から教わったことはあったが、そんなものはもう殆ど錆びついてしまっていた。だから無頼改で追加された廻転刃刀を扱うモーションパターンをまず反転し、それをシミュレーターで微調整してから、その挙動を身体に覚えさせるしかないのである。ここで更に面倒だったのが、前回の港での戦いで乗機だった無頼を完全に破壊されたことだ。
闘技場時代から使っていたグラスゴーに改修を重ねて使っていたものだったから、その機体CPUには今まで蓄積してきた全てのデータが揃っていた。それを流用出来れば無頼改の基本動作の調整は必要なかったのだが、生憎全て失われてしまったことで、また一から作業を行わなければならなくなったのだ。生半可な調整を行えば、自分の死に直結する。だから傷が治って自由に動けるようになってからの京介は、ほぼ連日連夜徹夜でモーションパターンの調整を行っていた。
拠点の工場の中の一角に、片膝をついた待機状態の無頼改と、そのコクピットから伸びた大量のケーブルが繋がる端末が簡易テーブルに置かれている。京介はその卓上に冷えたコーヒーの入ったステンレスマグと吸い殻がこんもりと溜まった灰皿を並べて置いていた。シミュレーターモードのコクピットでコマンドを実行した動作を端末上の3Dモデルで確認し、その問題点を紙に書き殴って改善策を導き出す。そして一通り終わればまたコクピットに戻ってモーションパターンを設定し直し、また動かしては確認して、という気が遠くなる作業をずっと続けていた。
京介のその鬼気迫る雰囲気に、団員達は誰も口出し出来ないでいた。軌道達であれば止められたのかもしれないが、彼らはキョウトからの依頼で他レジスタンス組織の為に軍が新規受領する予定のサザーランドの強奪作戦に従事していた。永瀬や竜胆は残っていたが、隊の末端に位置する彼らに止められる訳が無いのは明白だった。扇の言う事も聞かず、気を利かせて持って来てくれた飯に対する礼を口にするのみで、煙草と汗の臭いに塗れた少年はたった一人で情熱を燃やしている。二足の草鞋を履いていたカレンが、今は学園での生活を優先して拠点に顔を出していないというのも、何処か関係しているのであろう。自分の独善的な使命感と女への性的欲求というものを、ニコチンで抑えつけているだけだ。こんな作業でもしていなければ、無為に性欲を持て余していた。
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