【15】再び海、そして帰還
強烈な息苦しさを覚えた。
目を開けると、視界はコバルトブルー。
呼吸ができず、眼前には泡が踊る。
舌には嫌な塩味を感じる。
ようやく自分が水中にいることに気付き、両手をばたつかせると、水面に手が当たったのかばしゃばしゃと音が鳴った。
私は下向きの体勢になっているらしい。
すでに喉にまで海水が入り込んでいる。
咳き込みたくて堪らないが、それを我慢して身を捻らせる。
「ぶあっはあぁあっ!」
顔を空へと向け、呼吸が可能になると、すぐさま口の中の海水を吐き出した。
がほごほと咳き込み、残った海水を吐いていく。
「ぅあ……」
太陽の光が眩しく私の瞳を襲う。
口の中が気持ち悪くて仕方ないが、ともかく危機は脱したようだ。
幸いにも服は着ているので水には浮きやすい。
ぼうっとしばらくそのまま水面で浮遊していると、なんとか落ち着きを取り戻せてきた。
首を動かし顔を横へ向けると、砂浜が見える。
ここから距離は離れていない。
着衣水泳は不得手ではあるが、上を向いたままラッコ泳ぎをすればどうとでもなろう。
途中で何度か休憩を挟みつつ、ばたばたと足を動かしていると、ふいに後頭部が地面についた。
衝撃よりも強い痛みに違和感を覚えるが、そういえば、私は頭を怪我しているのだった。
一度、全身を地面につけ、起き上がる。
水分を吸った服が重くのしかかる。
ひとまずはジャケットだけでも脱ぎ捨ててどこかで乾かさなくては。
砂浜は無人のようだ。
ここで脱いでも良いのだが、開けた場所なので、気が引ける。
見渡すと、砂浜の先の岩肌にテトラポッドの群体を見つけた。
あの辺りが影になって良いだろう。
スニーカーの中が気持ち悪いので、一度腰を下ろすと、脱いで中の水を流す。
ついでに靴下も脱いでしまって、素足で砂浜へ足を下ろした。
そのままてくてくと歩いて、テトラポッドへ移動する。
丁度良い場所はないかと少し散策すると、下着姿でテトラポッドへ腰掛ける押田を見つけた。
「やあ、押田くん」
「……やあ、はないだろう、安藤くん。感動はないのか」
「いや、まあ、互いに無事で良かったよ」
「ああ、そうだな……て、おいっ! こっちを見るなっ!」
そう言って押田は両手で胸元を隠す。
「女同士だろう……何を恥ずかしがっているんだ、君は」
とはいえ、押田の希望は尊重してやろう。
押田から少し距離を空けた位置を陣取ると、私も衣服を脱ぎ捨てて下着姿になる。
脱いだジャケットやシャツはテトラポッドへ広げて干した。
ポケットからこぼれ落ちたスマホを拾い、奇跡が起きてくれと願いつつ操作したが、ぴくりとも動かない。
充電切れか、もしくは故障だろう。
当然の如く、無線機も故障していた。
腕時計はなんとか生きていたので、時刻を確認すると、ちょうど短針が6を指していた。
やることもなしに、腰を下ろしてぼうっと海を眺める。
海は、波が高く、ひどくくすんだ色をしていた。
隊長の家で見た海とは、随分と印象が違う。
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