第四話「黄金のひと時」
翌日、レオナルドがライブラに出社すると、ギルベルトが昨日のうちに用意してくれていた洋服一式を手渡された。
ドレスコードである。
《不可視の人狼》であるチェインはすでに着替えていたらしく、いつもよりパリッとしたスーツと青い花柄のスカーフを身に着けた出で立ちである。ツェッドは現在進行形でギルベルトに着替えを手伝ってもらっているらしい。
「なんだレオ、似合うじゃないか」
スティーブンに褒められると悪い気はしない。
レオナルドが渡された服はフォーマルなコーディネートで、茶色いレザーベストと赤と黒のチェックのシャツの上着、黒のデニムパンツだった。これと色違いが三着ずつ用意されているらしく、どうにかして着まわせという指示を受けた。
「靴はスニーカーでもいいが、汚れたのは履いていくなよ」
「詳しいですねー」
「なにをのん気な。それよりもこっちだ」
スティーブンに腕の捲くり方を教わっていると、ツェッドがギルベルトに引きつられて奥から現われた。
レオナルドとほぼ同じコーディネートでレオナルドと同じように袖を捲くっている。ネクタイを着けているのは、より良く見られるためだろうか。
「五つ星ホテル向きとは言わないが、すくなくともジャージよりは良いだろう」
レオナルドのシャツをズボンから出し、ボタンを外し、ベルトに手を掛けるスティーブンは、あるていど着崩させると満足そうに頷いた。
「ま、十分だろ」
「ありがとうございます」
「追加予算はあるからその服で足りなくなった場合は言ってくれ。汚した破けたという場合はキミらの給料から天引かれるからそのつもりで」
三人とも渋い顔で視線を逸らす。一着だけで月給が飛びそうな質感なのだ。
表情を維持したままホテルに入ると、昨日とは打って変わってホテルマンから厚遇を受けた。とはいってもエレベーターまで案内されるだけなので、チップを渡す暇もない。渡すつもりもなかったが、それでも、ツェッドに対する攻撃的な視線がなくなっただけでレオナルドとしては安心できるようになる。
「無用心ね、こんな簡単に最上階に行けるなんて」
「でもないですよ、エレベーターだけで三つの術式がありますね。たぶんテゾーロさんとかステラさんじゃないとペントハウスまで行けないようになってるんじゃないですか?」
つまらなそうに鼻を鳴らせて返事をするチェインだったが、いざテゾーロに挨拶する段になっては目をむくことになった。
彼の異形と、その発言に対してだ。
「このホテルで部屋を用意した。いい部屋だとスタッフが言っていたよ。ステラへの挨拶が終わったらフロントで生体キーをもらっていってくれ」
「ありがとうございます!! 僕の人生でこんなすごいホテル泊まれるなんて思いませんでした!!」
「大げさだな。それよりステラがキミたちを待ちわびていてね。とくにツェッドくん、気に入られたな」
レオナルドの発言に笑いながら応えるテゾーロは、ツェッドの肩に手を回し屈みながら猫なで声で囁いた。
「なぁ、キミ。ダンスを覚えるつもりはないかい?」
「ないです」
笑顔で「またフラれたか」と大げさにリアクションするテゾーロは、次いでチェインの肩を優しく叩く。
「ミス・チェイン。キミにはより重要な仕事を頼みたい。緊張が解けたなら少し話そう。さぁ、お姫さまがお待ちかねだ。また飛んでいかれたら大変だからな」
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