#009『スパゲッティコードの怪物』
「『ウマシェルジュ』。ウマスタグラムに12:00に投稿予約しておいて。写真はさっきとったトレセンの花壇をバックにしたので」
「かしこまりました。予約投稿を設定しました」
「『ウマシェルジュ』。次の週末、映画見に行くからチケット取っといてね。なにか適当なおもしろそうなやつ!」
「はい。ご主人様の嗜好データをもとに、恋愛ジャンルの映画をご予約しました」
「えーと、設定はこうかな? 『ウマシェルジュ』、インストールしちゃった!」
「こんにちは。新しいご主人様。ユーザーネームをお教えいただけますか?」
トレセン学園のあちこちで、生徒たちがスマートフォンに話しかけている姿が、最近よく見られるようになった。理由は大人気の無料コンシェルジュアプリ『ウマシェルジュ』である。最新鋭のAIを搭載した夢の対人会話型インターフェース。宣伝文句はよくわからないが、話しかけるだけで授業内容の確認からトレーニングスケジュール管理、レストランの予約、リアルタイム翻訳までできると非常に高性能で、寂しいときには話し相手にすらなってくれるという『ウマシェルジュ』はまたたくまにトレセン学園生の間でバズったのだ。
「流行ってるねェ……『ウマシェルジュ』とやら」
「ハン、噂じゃ『イスラエル国防軍』の研究所から流出した軍用AIが元らしいぜ? 『イスラエル』って国は無人兵器やAI兵器の開発においちゃ進んでるからな……まァ、軍の研究所から流出ってのがそもそも眉唾ではあるがな」
アグネスタキオンとエアシャカールはホールのテーブルに着き、黙っていても聞こえてくる『ウマシェルジュ』の話に耳を傾けていた。タキオンとシャカールは同じ理系ウマ娘であり、そういう縁もあって、タキオンとシャカールは時折こうして研究データの共有を行っている。特にシャカールは数学的ロジックを重視することからPCの構造・仕組みなどにも非常に造詣が深い。
「……しかしオレァ、作成元が『不明』なアプリなんざ怖くて入れられねえよ。どいつもこいつもセキュリティ意識が足りてねェ……」
実は、『ウマシェルジュ』は作成者不明の謎のアプリであり、セキュリティ的に不安があるということからトレセン学園はこの利用を禁止している。既にアプリストアからも削除されているのだが、『ウマシェルジュ』は利用者から利用者にコピーして配布できる機能があり、それもあって今でも利用者を伸ばしていた。
「……と言っても気になるモンは気になる。適当なボロPCにでも入れてプログラムをバラしてみるかァ?」
「ふぅン……ではコピーさせてあげようか? 『ウマシェルジュ』」
「あ゛ァッ!?」
タキオンは己のスマートフォンを取り出し、話しかける。
「やァ、『ウマシェルジュ』。私の友人が君に興味があるらしくてね。
データコピーの準備をしてもらえるかい?」
「わたくしに興味を持っていただけるとは光栄です。コピーの準備をいたします。少々お待ちください」
「お、オメーまでそんな怪しげなモン入れてんのか?」
シャカールは顔をしかめ、やや誹るように顎を手に乗せてタキオンに声を掛ける。シャカールにとっては少し意外だった。
「あァ、当然、安全性は信用はしてないよ。これは個人データの入ってないスペアのスマホさ。私も君と同じく、『ウマシェルジュ』とやらがどんなものか興味を持ってね。とりあえず機能面をいろいろと試してみたんだが……すごいねえこれは。よくできている。しかも容量も1GBしかない」
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