#010『ルナドロップ』
1969年7月21日、2時56分15秒。ニール・アームストロングは人類で初めて月面にその第一歩を下ろし、呟いた。
「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな進歩だ」
あまりにも有名なこの言葉が発せられた瞬間は、機体に備え付けられたテレビカメラで世界6億人以上に中継され、その後もアームストロングおよび、バズ・オルドリン両宇宙飛行士は月面の砂の採集をはじめとしたいくつかのミッションを遂行。さらには時の大統領リチャード・ニクソンとも月面とホワイトハウス間で通信を成功している。
しかし、このアポロ計画には様々な陰謀論がささやかれている。例えば有名なのはそもそもアポロ11号の月面着陸は『捏造』であり、我々は本当は月にいっていないというものだ。なぜ真空中で国旗がはためいているのか。どうやってヴァン・アレン帯を抜けたのか。初期の家庭用ゲーム機にも劣る性能のコンピュータでどうやって月に到達できたのか。なぜ月面で撮影された写真なのに背後に星が映っていないのか。重要な国家事業であるはずのアポロ計画のデータを収めた磁気テープが大量に行方不明になっているのはなぜか。そうしたものをあげだすと枚挙にいとまがなく、長年論争の的になっているのだが……
……そうした陰謀論の一つに月面との交信がごく短い間だけ断絶した間になんらかの『インシデント』が発生したというものがある。以下に示すのはとある団体が2013年にNASAから流出したものを入手したと主張する音声テープである。なお、同団体は交信は断絶したのではなく、意図的に『削除』されたものであるとしている。
「オルドリン。今、あそこの岩影で何かが動いたように見えた」
「まさか!」
「そちらからなにか確認できるか?」
「いや、船長。こちらからは何も見えない。まて――いや、動いた。なにかいるぞ」
「バカな……」
「ジーザス、嘘だろ! ミッション管制センター、聞こえるか! 管制センター! 月で原生生物を発見した! 二本足で歩いて――」
「人間? いや、あれはまるで……」
◆◆◆ マンハッタンカフェは動じない #010 『ルナドロップ』 ◆◆◆
「スーパークリークさんの様子がおかしい、ですか?」
「せや……なんか違うねん。クリークの奴」
「ああ、なんというか、よそよそしいというか……」
いつもの理科室に今日は珍しい二人組が訪れていた。
オグリキャップとタマモクロス。ともに芦毛のウマ娘で彼女たちが心配そうにカフェに事情を話すスーパークリークというウマ娘は共通の友人なのだそうだ。なんでも、スーパークリークは実家が託児所を経営していることから他人を子供のように甘やかすことが好きという少々かわった嗜好を持つウマ娘であり、今までは小柄なタマモクロスなどは特に可愛がられていた……らしいのだが……
「最近、その頻度が減ったっちゅーか……いや、別にそれはええんやけど、なんかな、態度が変やねん。無理しとるっちゅーかな……その事問いただしてもとぼけられてもたし……」
「タマやタイシンの世話もしたいのに、時間が足りない……そんなことをぼやいていた」
「ふむ……それで私たちに相談しに来た、と……」
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/8
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク