#003『そして天国の扉は開かれる』
その日のトレセン学園のざわつきようは、実質アグネスタキオンとマンハッタンカフェの共同スペースが如く使われている某理科室まで届いていた。
「まったく、なんだい今日の騒ぎは……これじゃあ気が散ってしょうがないじゃあないか……おちおち薬品調合もできやしない」
ため息をつきながら気分転換に紅茶を入れようと、ゴーグルとマスク、手袋を外し、手洗いまでしたところで一番のお気に入りのサバラガムワの茶葉を切らせていることに気づいたタキオンのいら立ちをさらに強くする。
「はぁ……まったく踏んだり蹴ったりだよ」
「なんでも……今日はトレセン学園に取材が来てるそうですよ」
そんな様子を見ながら、ソファでコーヒーをちびちびと飲みながらユキノビジンお手製のクッキーを齧っていたマンハッタンカフェがタキオンのぼやきに答える。
「取材ィ~~~? いまさら取材どころでこの騒ぎって……どこのメディアが来てるんだい? 日刊トゥインクルなんかはしょっちゅう取材に来てるし、いまさらそんなののひとつやふたつで騒ぐどころじゃあないだろうに……」
「いや、それがですね。来てるのはメディアじゃないんです。漫画家ですよ。それも……超大物です」
「漫画家ァ!? なんだいそりゃあ……」
普段漫画をあまり読まないタキオンは、ええー、という風に露骨に顔をしかめたが一方のカフェはというと、いつもとちがってどこかぽわぽわとしながらその漫画家の名前を言った。
「『岸辺露伴』先生が来てるんですよ」
カフェのパーソナルスペースには、『ピンクダークの少年』の真新しいサイン色紙が飾られていた。
◆◆◆ マンハッタンカフェは動じない #003 『そして天国の扉は開かれる』 ◆◆◆
「あれが『岸辺露伴』か……フン、なんとも鼻もちならなさそうな男じゃあないか。わたしはああいうタイプの人種は好かない。大っぴらに口に出さないが『苦手』ってヤツさ。そういう経験、君にもあるだろう? カフェ」
「おもいっきり大っぴらに言ってますよ……」
トレセン学園のお昼時。カフェテリアの一角に人だかりができていた。当然、その中心にいるのは例の漫画家。ファンサービスのためにサインを描いている最中のようで、女子生徒だけでなく中には学園教職員やトレーナー陣の姿まで見受けられるところを見ると人気は本物らしい。が、あまりに騒がしすぎる。
トレーナー手製の弁当を口に運びながらその光景を見ていたタキオンはカフェに愚痴った。
「それに、露伴先生はそんな人じゃないと思います。一見ぶっきらぼうに見えてもファンサービスはちゃんとすると好評ですし、連載開始から怪我以外で一度も原稿を落としたことがないんですよ。自宅が火事になっても、漫画を描き上げて連載を継続した逸話は有名です」
「随分と『岸辺露伴』の肩を持つんだなカフェは。まぁ……君が彼のファンなのは以前聞き及んだが、絶対性格悪いと思うよ、彼は。わかる」
とはいえ、実験の邪魔をされて少々意固地になっていることを自覚していたタキオンはまぁ、この喧噪も一日経てば終わりになるだろう……とみていたのだが。
「「「露伴せんせ~い!!!応援してま~~~す!!!」」」
トラックをランニング中のウマ娘たちが、ちょうど観客席でスケッチをしていた露伴に声をかけ、露伴も軽く手をあげてそれに応えてやる。
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