ハーメルン
六花、欠けることなく
16

 憧れだった念願の部署に配属が決まった。
 警察の花形と言っていいだろう捜査一課は、殺人や強盗などの凶悪事件を管轄とする。そこにいるのは相応に評価されている優秀な刑事ばかり。まだまだ半人前の自分では力不足だろうけれど、精一杯尽力したいと思う。
 きゅっとネクタイを締めて、よし、と気合いを入れた。

「俺が教育係の伊達だ。よろしくな」
「た、高木と申します! よろしくお願いいたします!」

 教育係として紹介されたのは、刑事という職を絵に描いたような強面の男性だった。大柄で威圧感があるが、にっと笑う目元は優しげで。元気がいいな、と僕の肩を叩いた伊達さんは、いかにも頼り甲斐がありそうだった。

「まあ、気負わずいこうや」

 これから僕は伊達さんについて、刑事のいろはを勉強することになる。


 *


 配属されてしばらく。
 ようやく職務について基本的な事柄をおさえ、たまに事件にも同行させてもらえるようになった。目の当たりにする現実の事件は、やはりフィクションとはくらべものにならない。冷静に被害者のご遺体と向き合い、現場や証拠を調べることに慣れるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

「まあ、誰も最初はそんなもんだ。初めて事件現場を見て吐かねえ奴の方が珍しいんじゃねえか」
「そ、そういうものですか……?」
「普通、見る機会ねえからな」

 そりゃそうだ。
 誰かの手によって命を奪われるのと病気や寿命でお亡くなりになるのでは訳が違う。無理やり命を奪われた場というのは、何とも言い難い陰惨な空気があった。
 現場を思い出して少し気が重くなりながらも、コンビニで買ってきたパンを警視庁のまずい珈琲で胃の中に流し込む。

「報告も終わったし、午後は聞き込みいくからな」
「はい」

 午前中に現場検証を行い事件性が認められたため、午後からは現場周辺の聞き込みだ。伊達さんの聞き込みの仕方をよく見ておかなくては。何より、少しでも早く手掛かりをつかんで犯人を逮捕し、被害者の無念を晴らさなくてはならない。
 む、と気合をいれる僕を見て、伊達さんはふと笑った。

「お前、意外と根性あるな」
「? そうですか?」

 おう、と伊達さんが頷いたとき、後ろから伊達さんを呼ぶ声が飛んできた。

「伊達、ちょっといいか」
「松田。どうした?」

 伊達さんの同期だという、松田さんだ。
 癖のある黒髪とサングラスがトレードマークのワイルドなイケメンで、元機動隊という珍しい経歴をお持ちだとか。その経歴にそぐわず、細身ながらしっかりと鍛えられた体躯をもち、犯人確保においては非常に有難い戦力なのだと噂を聞いている。先日腕相撲したら延々と勝負がつかなくて引き分けになった、と伊達さんが笑っていた。

「ふたりとも休憩中なのに仕事の話~? 真面目だねぇ」

 そこにひょいっと乗り込んできたのは特殊犯係の萩原さん。
 この人もおふたりの同期だと伺った。普段はのんびりとマイペースに振舞うが、ひとたび事件となれば人が変わるというのがもっぱらの評判。前にあった事件で懲りたから仕事中は気を抜かないことにしたんだよね~と笑って言い、伊達さんと松田さんに当たり前だと頭をはたかれていた。
 伊達さんと一緒にいるせいかよく話しかけてくれて、係こそ違うがとても話しやすい人だ。

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