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「悪い、遅くなった!」
「お、柊木」
「先始めてるぞー」
今日は珍しく松田から飲みの誘いを受け、仕事帰りに贔屓の飲み屋に向かった。この店は個室が完備されているからありがたい。伊達は仕事が詰まっていて不参加、あの馬鹿ふたりは相変わらず連絡が取れないので今日は爆処組と三人だ。
「飲み物は?」
「とりあえずビール」
「はいよ~」
注文したビールが届くと改めてグラスを合わせ、乾杯をする。お疲れ~と萩原が呑気に音頭を取るが、今日はその萩原のための会だ。
自分があまり酒に強くないのは自覚している。酔いが回る前に真面目な話は片づけてしまおう。
「さて萩原」
「ん? 何よ改まって」
「ああ、真面目な話だから心して聞け」
きょとんとした後に萩原は姿勢を正した。
警察学校ですっかり説教を受けるときの態度は学んだらしい。お前そういうところは素直なのに、と小さくため息をつく。
「どこかの馬鹿に爆弾を目の前に油断する悪癖があると通報があった」
ぎくりと、わかりやすく萩原の肩が揺れる。
隣に座る松田は素知らぬ顔でグラスに口をつけた。
「……俺はな、萩原。お前のことすごいやつだと思ってるよ」
「……え」
「まだ入庁してそんなに経ってないのに第一線で爆弾処理をするくらい、その能力を評価されてる。普段も軽いふりして誰よりも周囲を見てるし、いつも自分のペースを崩さず、どんな状況にも即座に対応できる。誰にでもできることじゃない」
「ひ、柊木?」
「だからこそ」
萩原が何か言おうとしたその声を遮った。さすがに笑顔も作れない。
「だからこそ、驚いたし失望した。どんなに優秀だろうが、爆弾目の前に防護服脱ぐだの一服するだの、お前がそんな馬鹿だとは思わなかった。……なあ、萩原」
俺、殉職を希望するような奴と友達やりたくない。
殉職と口にした瞬間、口の中に苦い味が広がった。その一言は、俺にとってあらゆる意味でひどく重い。どうか、萩原にとってもそうであってほしい。それだけのことをしているのだと、わかってほしい。
萩原、ともう一度名前を呼んだ。目の前のそいつが息を呑んだのがわかった。
「……柊木」
「何だ」
「……ごめん」
そんなこと、お前に言わせて。
笑顔を消して真剣な顔になった萩原が、そう言った気がした。
「……で?」
一応反省したことは見て取れたので、ついでに言質ももらっておこうとにっこり笑いかける。いろいろと察した萩原は顔をひきつらせた。
「……チャント、ボウゴフク、キマス」
何で片言なんだ、と突っ込むのも面倒で、そのまま続きを促す。
「それから?」
「バクダンノマエデ、ユダン、シマセン。カイタイヲサイユウセン、シマス」
「慢心は自分と仲間を殺すぞ。殺人者になりたくなきゃ肝に銘じとけ」
「わかった! わかったからもうやめて! 何お前怖すぎんだけど!」
「何て?」
「申し訳ございませんでした!」
涙目の萩原がばっと頭を下げたとき、笑いをこらえていた松田がとうとう噴き出した。さっきからぷるぷると堪えていたが限界だったらしい。
「やっぱ柊木に説教頼んで正解だったわ!」
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