ハーメルン
リコリス・リコイル 5話モブ救出RTA機動捜査隊チャート
Position is switched

 ─そんな感想は、女性警察官がぬっと自分の胸に耳を近づけたことで霧散した。

「ち…ょ…」
「呼吸、脈拍、大丈夫。今返事したから意識もあるね。よかった」

 ふわり、と笑顔を向けられて、また別の感情が起きる。胸が痛い。肋骨が折れたのか、それともまた別か。
 ─それよりも、何か大切なことを忘れている気がする。なにか、この人に見せたらいけないようなことが。何だっけ。わたしは誰だっけ。

「─グロック?」

 銀髪のその人が視線をずらして、ぽつりと漏らした。そう、それだ。見せたらいけないもの。『平和な日本』にあってはいけないもの。
 わたしがさっき取り落とした、拳銃。
 何を、言われるだろうか。

「…あぁ、思い出した。あの時の」

その人はそっと拳銃を取り上げて─慣れた手つきで薬室を確認、既に込められていた初弾を外し、マガジンに込めて装填した後、ジャケットへとねじ込んだ。

「ん、これで安全。内蔵セーフティは信頼できない」
「─へ」
「大丈夫。秘密、なんでしょ?守るよ」
「っ」

 学生服の少女が拳銃を持っていたことなど、どうでもいいとでもいうかのように。
 それよりも、何故か感謝の色が濃い目と声音で、目の前の人はそう伝えてきた。
 理屈で言葉にできないけれど、ひどく安心した。

「アマリ、もう静止はいいから。救急車と応援の手配」
「今やってまぁす!」

 横で跪いている人はというと、助手席にいるであろう相方に指示を飛ばしていた。一瞬こちらを向いて、すぐ救急車来るから、と簡潔に伝えるその声がさらにわたしを落ち着かせる。
 死ななくてよかった。そう思えて。
 直後、ヘッドライトの光がこちらに差し込んできた。

「GT-R…ひき逃げ犯?少し待ってて…そこのドライバー止まれ!」

 待って、行かないで。その車は。わたしを撥ねたその車はきっと。

「止まった…?アマリ、応援と救急車、急かして。対応は私が」
「あの、先輩」

 シルバーのセダンが間にあって直接は見えないけれど、ヘッドライトの主が停車したことと、離れていたはずの不穏な気配が戻ってきていることは、今の自分にも分かったから。

「何?」
「無線もスマホも通じなくて…通報、できないんですけど」
「…?」

 首を傾げている場合なんかじゃない。早く、早く逃げないと。この体がすくむような気配から逃げないと、だから。
 声が出ない。優しくわたしを見てくれたあの人に危険を伝えられない。だめだ。だめだ。だめ─

 ぱん、と。
 乾いた音が耳に残った。

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