ハーメルン
念願叶って潰れそうで潰れない喫茶店を開いたらなんか百合ラブコメの舞台にされたんだが?
謎の少女A
迎田茜ちゃんが運び込んだ黒髪の少女をベッドに寝かせた俺はとりあえず本人に尋ねてみる事にする。
「この子、何者なんだい?」
「知らない、けど。倒れてたから連れて来たの」
「ふむ」
茜ちゃんが何かを隠そうとしている事は分かる。
この子との間に何かあったのだろうか?
知り合い――だとしたらこうしてここに連れてこずに間違いなく学園へと運び込む筈だ。
訳アリ、つまり学園を頼れないとなると、もしかすると『アンノウン』関連の人物、だろうか。
そう思うのは、微かに少女から『アンノウン』の気配を感じるからだ。
『ビンゴだ、岸波。こいつン中に一体、俺の同族がいるぜェ』
「……」
ラプラスが言うのならば間違いない。
彼女は自分と同じく体内に『アンノウン』を飼っている。
だとしたら、何者だろうか。
普通に考えるのならば『プレデター』の関係者、だろうか。
しかしあそこは俺が潰したし、だとしたら残党?
まったく別の組織の人間だとしたらもうどうしようもない。
ただでさえ『プレデター』を潰すのにも面倒臭かったのに、これからまた新しい組織を潰すとなると正直もう手を出したくない。
向風学園の連中に丸投げしたい気持ちでいっぱいだ。
とはいえ、そうなると茜ちゃんみたいな女の子達が一杯駆り出されて犠牲になる可能性があるので、やっぱり俺が出るのが一番安全で手っ取り早いのだが。
うーん、難儀難儀。
……そう思っていると、少女が小さく「うぅ」と唸ってから、うっすらと眼を開く。
ゆるゆると開いた瞳は夢心地であり、どうやらまだ現実と夢との間を行き来しているみたいだ。
しかしすぐに意識が現実に戻って来たらしく、俺と、そして茜ちゃんの方を見て困惑した表情を浮かべる。
「あな、た。達、は?」
「ん……やっぱり知り合いじゃないのか」
「拾ってきただけだから」
「との事だけど。君、名前は?」
俺の問いに対し、彼女は何か答えようとして――固まる。
「名前……」
「答えられないのかい?」
「分かり、ません……分からない、どうして――思い出せない」
見るからに狼狽える彼女を見、俺は「うーん」と腕を組んで唸る。
どうやらその様子を見るに彼女は記憶喪失のようだ。
嘘を吐いているようには見えないし、事実なのだろう。
しかしそうなると困った。
彼女が何者なのか、どこに所属しているのか分からないとなると、こちらも手の施しようがない。
「まあ、良いや。とりあえず名前とかそういうのは置いておこう――とりあえず、これ。飲んでくれ」
俺はあらかじめ持ってきていた、既に少しだけ冷めている蜂蜜入りのミルクティーを彼女に渡す。
それをおずおずと受け取った彼女は警戒しつつ口をつけ、それから「……甘い」と少しだけ頬を緩める。
身体の強張りも少し弱まったみたいだし、リラックスしてくれたみたいだ。
「んで、だ。君――えーっと、なんて呼べば良いんだろ」
「A子ちゃんとか?」
「……恵美ちゃんと呼ぶ事にするけど、良いかな?」
「は、はい」
俺の提案にひとまず了承してくれる少女――恵美ちゃん。
「恵美ちゃんは多分自分でも分かってる通り、記憶喪失みたいだ。だから現状帰る場所もないし、向かうべき場所もない。そうだね? 分かる事があったら、教えて欲しい」
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