ハーメルン
古龍が去った後日談
ギルドスタイル

〜ギルド 集会所

ギルドは東西から侵攻してくるモンスターの迎撃に士気を高め、狩人達は賑わっていた。
東の尾槌竜に西の重甲虫。外の国から危険な強敵が向かってくる。
古龍ではなくても一国の危機。
多額の報酬金が掛けられている。
ハンターが勝つことができれば奇跡だ。
周囲が熱気で包まれる中、ギルドマスターの前で黒狼鳥の装備を着ている狩人が頭を下げた。

「そうか。アトラル・カは倒せなかったのか」

「不甲斐ない。戦争は止められません」

「いいんだ。鋼龍と金獅子の出現は我々も予測出来なかった。これはギルドの失敗だ。
古龍に太刀打ちできるハンターは少ないが、うちのハンター達はよくやってくれている。
君の戦いに孤独はないんだよ」

「...ありがとうございます」

「君は怖くないのか?」

「既に誰かが成し遂げたことを、私は辿るだけですから」

そういって、狩人はその場を後にした。
彼自身も気づいていないが、彼は才能に恵まれていた。人間が古龍との力の差に悩み、苦しむことなど、既に常人の発想では無いのだ。
狗竜を倒せば功績、怪鳥を倒せば一人前。
火竜を倒したハンターは英雄として一生地域で語り継がれる。
狩人の人生とは本来そういった規格の中にある。
古龍と戦うのは狩人の役目では無い。国家とギルドが手を組み、死力を尽くして撃退する。
それが古龍という存在だ。単身古龍に挑んで武勲を立てるなど、神話の英雄の所業である。
天才とは脆く壊れやすいものだ。
古龍の威圧とは、対峙した相手の気勢を削ぐばかりのプレッシャーではない。
対峙する前から世間の目、死への恐怖として狩人を追い詰める呪いだ。
神殺しは狩人の仕事では無いのだ。
長い石造りの廊下を歩いて図書室に向かう。

「装備と戦略、全部見直した方が良さそうだ」

手に取った本の表紙にはシャガルマガラ事件と書かれている。

彼の目に入ったのは、黒蝕竜ゴア・マガラが天廻龍の幼体にあたるという記述だった。
天廻龍は狂竜化したモンスターを宿主にして繁殖する生物だ。時期さえ来れば黒蝕竜自体の個体数は多い。増えすぎた個体は天廻龍が散布する狂竜物質を浴びて脱皮不全となり死滅する。
そのため黒蝕竜は天廻龍より資料が多い。
天廻龍の対策にはうってつけの存在だ。

しかし幼体とはいえ油断はできない。
恐暴竜の討伐と炎妃龍の撃退という衝撃的な実績を持つギルドの精鋭部隊「筆頭ハンター」でさえ黒蝕竜との戦いに敗れている。

黒蝕竜ゴア・マガラ。
狂竜物質を利用した変則的なブレス攻撃と翼脚の腕力を武器とする分類不明の大型竜だ。
頭部には目が無いため、視力が発達していない代わりに鱗粉で相手の位置と姿形を認識する。
逞しく発達した翼脚は雪鬼獣や轟竜を抑え込むことができる程の力を発揮する。
しかし、黒蝕竜は古龍の幼体だ。超災害級モンスターである恐暴竜や炎妃龍より強い筈がない。
筆頭ハンターが黒蝕竜に敗れたということは、黒蝕竜が何かを隠し持っていたということだ。

資料のページを捲る。
狂竜物質を撒き散らしながら降り立つ黒蝕竜のスケッチが描かれていた。
紫黒の闇が霧のように広がっていくその様は天廻龍と瓜二つだが、その貌に眼球は無い。触覚と翼脚を折り畳み、翼膜を引き摺って歩いている。

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