ハーメルン
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第九十五話 『殲滅』 須田恭也 夜見島 33:33:33
四鳴山山頂の鉄塔が崩壊し、
母
(
・
)
の
(
・
)
気
(
・
)
配
(
・
)
が消えてから十時間以上が経過していた。
写し世の夜見島に残された闇人達は、島南西部にある
潮降浜
(
しおふりはま
)
の小学校に集まり、これからどうするかの決断を迫られていた。母の気配は消えたままだ。恐らく、もう二度と戻って来ることはないだろう。写し世の夜見島から母の気配が消えたのが、昨夜の十一時頃だった。その一時間後の、ちょうど日付が変わる寸前。島に、母の悲痛な叫びが響き渡った。あれは、断末魔の悲鳴だった。信じられないことだが、恐らく母は、人間どもに殺されたのだ。
残された我々はどうすべきか――集まった者で話し合い、まず挙がったのは復讐だった。母の命を奪った者を見つけ出し、報復すること。それが、母の無念を晴らす唯一の手段である、というのだ。
母の命を奪った者の見当はついていた。母の気配が消える前、若い人間の男女が鉄塔を登っているところを、複数の仲間が目撃している。鉄塔の崩壊現場から、その男女の死体は見つかっていない。鉄塔の先端部は地上世界へと繋がっていたから、恐らくその二人は地上世界へ帰還したのだ。ならばその者を追い、見つけ出して復讐すべきだ。
この意見に、多くの仲間たちが賛同した。現在闇人達のリーダーを務める自衛官の人型闇人にも、母の仇を討ちたいという思いは、もちろんある。
だが、現状それを実行するのは不可能だと言わざるを得ない。
九時間前の母の断末魔の悲鳴と共に、島を赤い津波が襲った。これにより、ほとんどの仲間が流されてしまったのだ。現在この島に残っているのは、人型・巨体・四足の『殻』を持つ闇人が十体、そして、それら『殻』を持たない闇霊が二十体ほどだ。地上世界へ向かい、母を殺した者を見つけ出して復讐するには、あまりにも数が少ない。そもそも、鉄塔が崩壊してしまった今、残された者たちには地上世界へ行く手段が無いのだ。これで、復讐など果たせるわけがなかった。
ならば、我らがすべきことはひとつだ、と、別の者が言った。母の仇を討てぬのであれば、我らも母の元へ向かうことで、母への愛を示すのだ、と言う。
死んでしまった母の元へ向かう――すなわち、殉死。
この意見に、仲間たちは黙り込んでしまった。賛成する声は上がらないが、反対する意見も出ない。沈黙こそが、その回答だった。皆、判っているのだ。もはや、そうするしか道がないことを。
この写し世の夜見島は、間もなく崩壊する。写し世は母が創り出したものだ。母がいなくなった今、その形を留めておくことはできない。崩壊に巻き込まれることは、すなわち、消滅である。
だが、闇人の隊長は、断じて殉死を許さなかった。母の後を追って死ぬことが愛ではない。母の遺志を継ぐことこそが真の愛である、と、説得した。母の遺志、それは、人間どもに奪われた地上世界の奪還。無論、いま残された者たちでそれを果たすことは不可能だ。だから、一度地の底の冥府へと戻り、次の侵攻に備えて力を蓄えるのだ――かつて、光の洪水で地上世界を追われた母がそうしたように。どれだけ時間がかかるかは判らない。母でさえ、地上へ帰還するための準備に途方もない時間を費やした。卑小な我らでは、さらなる時間を要するだろう。もしかしたら永遠にかなわないかもしれない。それでも、生き残りさえすれば、ほんのわずかでも希望は残る。ここで我らが全滅すれば、母の野望は完全に断たれるのだ。
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