第13話 覚醒
ミルコは街頭テレビで帽子の男を観た瞬間、思わず拳を握りしめた。
──拠点は静岡じゃないのかよ……!
今から東京都に向かっても何時間もかかる。それに加えかなりの体力も消耗する。だが、ミルコは帽子ヴィランを捕まえるため、今まで静岡でヒーロー活動していたのだ。東京都に着いた時にはもう決着がついているだろうが、向かわないという選択肢はない。
ミルコは東京都方面に向かって跳躍。空中で携帯を取り出し、HNにアクセス。駄目元で『自分が来るまで帽子ヴィランとの戦闘を引き延ばせ』と全体チャットに書き込もうかとすら考えたが、現状の全体チャットを見て舌打ちした。『自分は帽子のヴィランを捕まえに行くから爆発の被害に遭った負傷者の救助は任せた』という意味合いのチャットがズラッと爆速で流れていっている。なかには『お互い連携をとって協力し合い、負傷者の救助をすべし』という意味合いのチャットもあったが、圧倒的少数派であった。
ヒーローは本来の仕事と人気商売の両立が必要な過酷な職業である。普通の格好で平凡に助けたり倒したりしても、国民からは見向きもされない。オリジナリティ溢れる衣装で派手な必殺技や決め台詞をビシッとキメるくらいでないと、国民の支持は集められない。この場合で言うならば、爆発の被害にあった負傷者を救助したところで周りからのささやかな感謝があるだけだが、テレビ局を占拠した帽子ヴィランを捕まえれば多数の国民が好印象をもつ。更に言えば、ヒーローは救助より戦闘に向いてる『個性』の方が多数である。彼らは、負傷者救助をしたくないわけではない。そういうのは得意なヒーローに任せて、一刻でも早く元凶を捕縛する方が良いと判断しているだけ。こういう理屈で自己弁護、あるいは自身の行動を正当化させ、合理的思考だと思い込む。これこそ、ヒーロー同士の競争で生まれた弊害である。
ミルコは結局チャットを打たず、携帯をしまった。自身の醜い部分を見せられたようで、不愉快な気分になったからだ。
東京都に辿り着いた時には戦闘は終わっていて、おそらく救助がメインとなるであろう。それでもいい。その時は救助活動を全力でやる。
ミルコは心の内でそう誓い、燃輪からもらったヒールボトルをチラリと目線で確認してから、再び正面に目を据えた。
そのテレビは職員室にあるテレビだった。
テレビに映る帽子の男は挨拶した後、タブレットを取り出し操作。
『私は職業ヒーローが悪だと思っている。早速だけど、この映像を観てほしい』
帽子の男はタブレットをカメラに近づけ、タブレットの動画再生ボタンを押す。
動画は殺風景な廊下に倒れている五人の人間の映像から始まった。その内の一人はまだ生きていて、携帯電話を取り出す。そして電話を開始。
《緊急要請! 緊急要請! 静岡刑務所がヴィラン五名に襲撃された! 近場にいるヒーローはすぐ現場に急行されたし! 繰り返す! 静岡刑務所がヴィラン五名に襲撃された! 近場にいるヒーローはすぐ現場に急行されたし!》
その電話をしている間も、映像はその相手にゆっくりと近付く。電話が終わった相手は怯えた目でカメラに向かって手を伸ばした。
《頼む、助けて──》
その伸ばした手をカメラ側から伸びてきた手が掴み、一気に引き寄せた。相手の顔がアップになり、その首にナイフが差し込まれた。画面いっぱいに広がる殺人の瞬間。相手の目から光が消える。そこで動画は終わった。
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