第19話 快楽殺人者
両翼を持つ青年はミルコとエンデヴァーの方に近付いた。
彼の本名は鷹見啓悟と言い、ヒーロー名はウイングヒーロー『ホークス』。十八歳でヒーロー事務所を立ち上げ、その下半期にはヒーロービルボードチャートというランキングのトップテン入りを果たしている。十代でトップテン入りしたヒーローは史上初であり、そこからもホークスのポテンシャルの高さを窺わせる。
「お前……ホークスだな? お前の事務所って確か福岡だろ。なんでこんなトコにいるんだよ」
「福岡とかそんなこと言ってる状況ですか。あなた方はあの帽子ヴィランがやったことの重大さが分かってない」
「……なんだと?」
エンデヴァーとミルコがホークスの顔を見る。ホークスの顔から笑みは消えていた。
「いいですか、帽子ヴィランは『個性』らしきものを使わず、これだけのことをしでかしたんですよ。そりゃテレビ局を占拠する時には仲間がいたでしょうし、彼らが無個性である可能性は低い。でもね、テレビ局から逃走して最期に自爆するまでの間のことは『個性』を使用してなかった。国民の一番目に触れる部分でそれをやった。それが問題なんですよ」
「……模倣犯が大量に生まれると考えているのか」
「それで終わるならかわいいモンですね。俺が危惧しているのはその先です」
「その先ってのはまさか……無個性や弱個性と言われて差別されていた連中の武装蜂起か」
「それも危惧している内の一つです。それだけじゃないパターンがいくつも考えられるし、それらのパターンの複合もしくは同時発生なんかも考えられる。なんにせよ、これからの展開がどうなるか読みづらいんすよ。だったら少しでも読みやすい場所にいなきゃ置いてかれちまう」
そう言った後に、ホークスは二人に向けて笑った。
「てなわけで、これからこっちでしばらくはやらせてもらいます。情報共有お願いしますね、お二人さん。俺も何か分かったらお伝えしますから」
ホークスは窓に近付き、窓を開けた。両翼が広がる。
ホークスは振り向き、ミルコとエンデヴァーに向かって右手の指先で軽く挨拶をした後、窓から飛び出して真っ暗な空へと飛び立った。
◆ ◆ ◆
「お、俺はぬ、抜けるッ!」
丸井は声を震わせ、どもりながらもそう叫んだ。拠点の倉庫である。今や銃器、弾薬、爆発物、ヒーローアイテムの保管場所であり、半分メンバーたちのロビーとなっているような場所だ。つい三ヶ月前まで廃材が放置してあった場所とは思えない。
丸井は顔面を蒼白にし、俯きながらも、佐藤と対峙していた。
佐藤は丸井の言葉に対し、反応一つしない。表情すら変化しなかった。
丸井は佐藤の返事を待たなかった。そもそも抜けることに同意を求めておらず、抜けるという決定事項がまずあり、そこを踏まえて自分の本心をぶつけようと考えていた彼にとって、佐藤の返事は不協和音に等しい。
「さ、佐藤さん、あ、ああ、あんたはやり過ぎだ! こんなのに付き合ってたら命が、いい、幾つあったって足りやしない!」
周囲には他のリベンジエッジのメンバーも勢揃いしていた。彼らは佐藤の方を緊張感を持って窺っている。佐藤の性格を考えれば、即拳銃を抜いて撃ち殺すことは容易にあり得る展開だからだ。
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