ハーメルン
ヒーローと亜人
第2話 準備運動

 佐藤は考えた。この日本でゲームするのはいいが、ゲームするためには当然クリア条件がなければならない。佐藤はゲームのクリアはどうでもよく、過程さえ楽しめればいいタイプだが、目的の存在がゲームをより真剣にする要因になる。
 しばらくクリア条件を考えていたが、佐藤はまだ自分はゲームをスタートする段階にすら立っていないことに気付いた。永井圭と共に川に落ちた時、武器は全て使いきっていて、この日本に来たときに使える武器といえばベルトくらいだった。
 それに加え、佐藤はまだこの日本のウィークポイントというか、革命を起こすための大義名分を掲げられるほど、この日本をよく知らない。ゲームのクリア条件はやはり崇高な目的の方がやりがいがあるし、障害も多いから、よりゲームを楽しめる。それが分かっているからこそ、クリア条件は雑に決めたくない。
 故に佐藤は今後の行動方針として、まず武器と拠点の確保を第一にし、同時にこの日本についての情報収集をしていくことに決めた。
 大前提として、佐藤はこの日本で住民登録をしていないから、まともな働き口は全滅と言っていいだろう。更に、佐藤は一文無しだ。
 かと言って、このまま何も食べずに餓死したとしても、亜人である佐藤は問題ない。むしろ餓死した方が空腹感が無くなる分お得だ。肉体も本来の状態で復活するから、身体能力の低下を気にする必要もない。

 ──さて、拠点探しと行こうか。(ヴィラン)とやらがいてくれる拠点なら、ボーナスチャンスかなぁ……。

 佐藤は公園に戻り、他のホームレスと似たような状態で一夜を過ごした。昨日の日中は町中を歩き回りつつ、最低限武器として使えてかつ怪しまれない物を集めた。リサイクルボックスからはみ出していた大きなカバンを取り、スーパーの空き瓶を四本取り、川原に落ちている大きめな石を十個拾った。
 佐藤はカバンに空き瓶と石を入れ、町中にある廃工場へ向かう。目星は昨日の内に付けてある。監視カメラや厳重な封鎖がされてなく、かつ人の出入りの痕跡が微かに残っているところ。こういう物件は表を歩けない人間たちの溜まり場になってることが多い。

 ──最初は武器も弱いし、この世界でのIBMがどれくらいの性能か確かめたいから、IBMはガンガン使っちゃおう。

 佐藤は人の出入りがある痕跡の場所から入る。
 工場内の通路をちょっと歩いたところで、ゴツい男が横から飛び出してきて、佐藤の体を壁に思いっ切りぶつけた。佐藤は壁に押しつけられる。

「てめぇ、何モンだ!?」
「私は会社にリストラされて……」
「はっ、ただの負け犬かよ」

 佐藤の身長より頭一つ分抜けているゴツい茶髪の男が、佐藤の体格と怯えている表情を見て、嘲りの表情を浮かべた。佐藤がわざと弱そうな振りをしていることにも気付かずに。
 佐藤はカバンに手を伸ばし、石を掴む。そして押し付けている腕に力強く振り下ろした。

「がっ! てめぇ……!」

 腕を押さえながらゴツい男が佐藤を睨む。その顔に躊躇無く、佐藤は石を握りしめた拳を叩きつけた。ゴツい男は顔を押さえてよろめく。その間にゴツい男のズボンにあるナイフホルダーからナイフを引き抜き、男の首を切った。

「ごぼッ……」
「まず一人……かな!」

 佐藤は更に首にナイフを振るい、トドメをさす。その後、男の服でナイフの返り血を拭った。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析