第9話 ミルコVS佐藤
刑務所搬入ゲート向かいの建物の屋上。二人のヴィランが刑務所の方を双眼鏡で監視している。彼らは二人一組のチームであり、他の四棟の屋上からもそれぞれ二人一組のヴィランが同様に監視している。
彼ら十人は佐藤から応援に来たヒーローの監視とヒーローの対処を依頼されたヴィランたちだ。佐藤は金払いがいいため、彼らは真面目に依頼をこなしている。
そんな彼らの頭上を一瞬で通り過ぎ、十五メートルの高さがある刑務所の外壁に人影が着地。その人影を双眼鏡で見て、双眼鏡を構えたヴィランの顔から血の気が引いていく。
双眼鏡から手を放し、すぐさま携帯を取り出して電話。もちろんその相手は依頼主である佐藤だった。
佐藤が搬入ホームへ続く通路を歩き、その後ろに丸井、沙紀、怜、針間の四人が続く。そこで、佐藤の携帯が鳴った。佐藤は携帯を取り出し、電話に出る。
『佐藤さん! ヒーローの応援が来た! あのミルコだ! ミルコが来たぞ!』
「ミルコ……上位プロヒーローだったね。たしか個性は『兎』だったかな」
『佐藤さん! 俺たちの援護は!?』
「君たちはバイクと車が用意してある場所までの退路確保を頼む。次連絡した時が合図だ」
『分かった!』
佐藤は電話を切り、アサルトライフルを迷わず再装填。十三発しか残ってない弾倉は弾薬入れポーチではなく、ミリタリーベストのポケットに入れた。
「ミルコってマジ……?」
沙紀が不安そうに訊いてきた。佐藤は頷く。沙紀は頭を抱えた。
「ガチヤバいってぇ……。あたしたちオシマイかも……」
「ならここで縮こまって、ヒーローに捕まるのを待つかい? 別に私はそれでも構わない。囮がいた方がチームの生存率は高まるからね」
ゾワッとしたものが沙紀のつま先から頭まで駆け抜けていく。それはついて来れない者を平然と切り捨てる佐藤への恐怖と、自分を侮られたことへの怒りだ。
「あたしをナメんなよ、おっさん! 上位プロヒーローだろうが知るか! 絶対逃げてやる!」
「その意気だよ」
佐藤は沙紀の悪口を軽く流し、笑みを浮かべる。てっきり口論になるかと思っていた沙紀は拍子抜けして息をついた。
「体験版ってあるよねぇ。本編のゲーム発売前に過程をすっ飛ばして本編のボスと戦えたりするヤツ」
「え? なんの話?」
急に話題を変えた佐藤に、沙紀は訊き返す。
「本編のゲームの前に、ちょっとだけ体験版を遊んでみようかなって思ったんだよ」
佐藤の言葉で、佐藤の後ろを付いて歩いている他の四人は直感した。佐藤はミルコと戦う気だと。
「さて、兎狩りといこうか。ただし、この場からの撤退が最優先なのは忘れずにね」
佐藤はアサルトライフルを構え直した。
ミルコは刑務所の外壁の上から、刑務所全体を見下ろす。ミルコが探しているのはヴィランの侵入ルートである。慌ただしく建物から出てくる人々。反対にヒーロースーツを着たヒーローたちが建物に入っていく。刑務所の外壁に損壊は見られなかったから、どこかに侵入の形跡がある筈。ミルコは一瞥でそこまで思考し、搬入ホームのトラックの側で倒れている人に気付くと、そこ目掛けて一気に跳躍。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク