7月1日 その①
Side 堀北鈴音
Cクラスの朝はいつも騒々しい。
依然として私には理解できないけれど、真面目とは程遠い人種が多いからだ。
赤点筆頭候補組の池くん山内くん、須藤くんをはじめとした男子の集団や、軽井沢さんを中心とした女子グループがいつも騒がしくはしゃいでいる。何を毎日話すことがあるのだろうと疑問に思うところもあるけれど、聞いたところできっと私には理解できないだろう。
そんな彼ら彼女らだけれど今日はいつにも増して騒々しい。そわそわと緊張している気持ちを誰かと共有することで和らげているといったところでしょうね。
かくいう私も少し落ち着いてはいない。
というのも、空条くんの忠言により最小限の損失でやり過ごしていた毎月のプライベートポイントの振込が滞っているのだ。
6月は5月とポイントの変動はほとんどなかったものの問題なく1日の朝の段階で支給されていた。変動はないと言っても私たちのクラスの場合、維持できたことを喜ぶべきだと思うけれど。
私は学校から支給されている携帯電話を取り出すと、プリインストールされている学校のアプリを起動し、表示された画面に学籍番号とパスワードを入力しログインを行う。そしてメニューの1つである残高照会をもう一度行う。けれども、昨日の段階から残高は減ることもなければ増えているということもなかった。
入学式のあの日、空条くんが質問をするまでにこの学校のシステムに違和感を覚えた生徒がどれだけいたのだろう。花の高校生生活を謳歌しようと浮かれていた人、支給されるポイントに目が眩んでいた人、人間関係の形成に一喜一憂している人、本当にさまざまな人がいる中彼は茶柱先生の説明に一石を投じた。
おかげで思考を始めることができた生徒も多いと思う。恥ずかしい話だけれど、私だってその一人だ。
兄さんに追いつくことだけを考え、そのことで頭がいっぱいだったあの瞬間に私が彼の思考に到達することはなかったと思う。
中間試験にしてもそう。彼は試験の説明を聞いた日から、正攻法以外の手段を模索し結果見事クラスから落第者を出すことなく乗り切られることができた。
学力をつけることは決して無駄なことでない。けど、あのタイミングで彼が平田くんを通して過去問を配布していなかったら正直須藤くんをはじめ何人かの生徒は厳しいものがあったのも事実。
彼がいなければこのクラスはポイントもクラスメイトも失っていたかもしれない。
そうなれば、ある種騒々しいが全体として明るいこのクラスも雰囲気は格段に重く悪い空気になっていたことでしょう。責任転嫁を繰り返し内部崩壊していく未来は容易に想像できる。
何よりも生活費が確保されていることが大きい。
お金で買えないものもあるとはいうけれど、衣食住が満たされてからの話であり、お金がないというのはそれだけで精神的負荷がかなり大きい。
授業を真面目に受けるだけで精神をすり減らしている彼らにはとても耐えられないと思う。
私が携帯電話を片付けたタイミングでホームルームを告げる鐘がなり、茶柱先生が入室してきた。
「おはよう諸君。どうした、いつにも増して落ち着かない様子だな」
「佐枝ちゃん先生! 今月ポイント振り込まれてないんですけどー? 0ポイント支給されたとかってオチじゃないっすよね?」
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