無人島へ行こう その⑤
無人島へ行こう その⑤
無人島生活2日目、早朝。
慣れない環境に適応しようと無理した身体を労うかのように全員が爆睡している。夜間に起こされスポット更新に付き合っていたメンバーは尚のこと眠りが深い。
承太郎が洞窟外に出ると、まだ日が昇り始めたばかりの薄暗い空が出迎える。
夏真っ盛りとはいえ、大地が吸収した熱を放出しきった早朝の空気は澄んでいて実に居心地が良い。
承太郎は大きく息を吸うとバケツと投網を持って島の最高標高近くにある小さな水源に向かう。
「おはよ、空条くん」
振り返って見ると松下が小走りで元へ駆け寄ってくる。
承太郎が挨拶を返すと、松下がついてくると言うので了承し歩き始めた。
「私にできること、何かあるかな?」
「体調を崩さず最後まで過ごす、それで充分だ」
「それはほら、みんなそうだよね? わかるでしょ?」
「……3日もすれば疲労によるストレスから皆気が立つ頃だろう。女子サイドのメンタルケアに気を遣ってくれ」
「クラス内の対立はもう避けたいもんね」
「そういうことだ」
ストレスを緩和するような評価や活動、男子やその他に関する不平不満への適度な同調と抑制。
抑え込むだけではいずれ溢れかえるだろう感情の波のコントール。
容易なことではないが、松下は自分ならできると確信に近い自信を持っていた。
何せ最も重要な軽井沢グループの機嫌取りは内部からであれば案外簡単だからだ。
森に入ると少しじめっとした空気を肌で感じる。
日の当たらない分涼しいのかと思えば、風通しが悪い分少し暑い。
「初日を終えて女子の方はどうだ」
「みんな疲れて即寝ちゃってたからなんとも。力仕事とか男子に頼ってる仕事多いでしょ? だからまだ不満とかは少ないかな」
「少ない?」
「まぁどうしても共同ってところに引っ掛かっちゃう子はいるんだよね。でも、その辺りは上手くやってみるよ」
険しい道のりを進み、水源に着くと承太郎は顔を洗った。この水源はBクラスが抑えたスポットのひとつだ。
上流というだけあり非常に透明度の高い綺麗な水質をしている。そのままでも飲めてしまいそうなほどだ。
渓流の王者イワナの姿もあることから、水質の良さが窺える。
「ところで空条くん、それ投げられるの?」
松下が指差すのは当然投網だ。
一般の男子高校生のうち適切に扱える事ができるのはほんの一握りだろう。
「問題ないぜ、何度か見たことがある」
「え? てことはやったことないの?」
松下は承太郎が首を縦に振ると苦笑いを返す。
しかし、恐ろしいのは承太郎の観察眼と身体操作感覚の鋭さ。
投網を打った時に網が手から離れないように、手縄を固定する輪を作ると、利き手と反対の手首に輪を通していく。
流れるように段取りをしていく承太郎はあっという間に投擲の姿勢に至った。
そのままフリスビーでも投げるかの如き美しいフォームで放たれた網は綺麗な縁を描き水面に落ちる。
「すごい綺麗!」
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