女怪盗
「そういえば、サイバース精霊界って言ってたけど、ここに居る精霊はサイバースだけじゃないんだな。確か小夜丸は戦士族だったはずだ」
「おや? ラッセさんは彼女の事を知っていたのですか」
小夜丸と遭遇した後、マスカレーナの案内の元、街を歩く俺は気になったことを聞いてみる事にした。
『S-Force乱破小夜丸』というモンスターはサイバース族ではなく戦士族だ。
彼女が所属するセキュリティ・フォースはその名前から一見サイバース族で構成されたテーマカードの様に思えるが、実は戦士、サイキック、サイバース、機械、魔法使いと様々な種族で構成された集団だったりする。
そんな戦士族の小夜丸がこのサイバース精霊界と呼ばれる場所に居る事が不思議だったのだ。
「そうですね。ここに居る精霊達はサイバース族も多いですが、他の種族の方達も沢山居ますよ。私はここをサイバース精霊界と呼んだりしますが、実際の所この世界に決まった名前は無いのです」
「それじゃあ、さっき小夜丸が言ってたEden Cityって言うのもここの別名みたいなものか」
「ですね。精霊達の中にはよく聞く人間界の街の名前であるDen Cityからもじってこの街のエリアをそう呼ぶ者達が居ますので」
この精霊界はサイバース『の』精霊界というよりはサイバース『な』精霊界と言った所だろうか。
そう言う事ならサイバース族だけではなく、背景ストーリー的に科学技術に適性がありそうなモンスターの精霊が居るのも不思議ではない。
「あ! ラッセさん! あの二人は知っていますか?」
そう言いながらマスカレーナが指さしていたのはとあるビルに掲げられた広告に写っている二人組だった。
「あ、あれは! マグネッツ1号&2号!」
「いや、彼らではなくてですね……ていうか、何でそっちに注目したんですか? まあ確かに彼らも人気配信者ではありますけどね」
「え? あのダサそうな二人組が……人気?」
そこに描かれているのは古代の遊戯王カードのモンスター、『マグネッツ1号』と『マグネッツ2号』。シェイレーンの言う通り、現代の感覚からすれば少しやぼったいデザインかもしれないな。だけど、それは思っても言葉にしたら駄目だぞ?
まあ俺もあの二人組が人気配信者としての立ち位置を獲得している事には驚きを隠せないんだが。
「ていうか、生粋の戦士っぽいあの二人はこんなサイバースな世界でやっていけてるんだよな……。ちょっと意外」
「あの二人はマグネッツのコスプレですから本人じゃないですよ?」
「コス……プレ……マジ?」
「マジです。ちなみに彼らの正体は情報通の私ですら把握できていないです」
そういうマスカレーナの表情は少し悔しそうであった。もしかして、あの二人の正体を探ってみたことがあるのかもしれない。
いや、それよりもまさかあのマグネッツの二人組が本人じゃなくてコスプレだったとは。
だが、それはそれでどうしてコスプレのお題としてマグネッツを選んだのか、その意図が不明過ぎてもっと怖い気がするぞ。
「って、そうではなくて! 見て欲しいのはその隣です! 色々なモニターに彼女達が映っているじゃないですか! 逆にあの中からマグネッツの二人組を見つけ出したラッセさんに脱帽ですよ」
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