睡蓮
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「…あれっ?居ないみたい…」
施設内に入り、セキュリティチェックを受け、征陸が居るであろう部屋へと向かったものの姿はない。広々とした個室には無数の油絵が並べられ、病室と言うより、アトリエと言った方がそれっぽい。
落ち着いたレトロモダンな部屋。ベッドの隅にはやけに新しい花が花瓶に活けられ、傍らには写真が2つ飾られていた。
幼い宜野座と写った写真と、狡噛と舞白と宜野座の例のスリーショット写真。無邪気に微笑む宜野座の姿を見ると、この2人の関係性が伺えた。
「いつもの所にいるんじゃないか?」
宜野座の言う"いつもの所"。
その場所に舞白はピンとくる。
「確かにそうかも。」
「先に言っててくれ。俺は主治医に会ってくる。」
「うん、分かった。」
2人は部屋の前で二手に別れると、舞白は"いつもの所"へと向かう。
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本当に潜在犯がいる施設なのか?と疑うほど、綺麗に整備された施設だった。感じのいいセラピストや医者達。奥には重篤者もいるようだが、一般病棟は本当に、普通の病院と変わらない雰囲気だった。
歩き進んで行くと中央に大きな湖が置かれた庭園にたどり着く。広い湖には睡蓮が浮かんでいた。
恐らくはホログラムだろうが、周辺に咲く花や木々、あらゆる植物が光り輝き、まるで楽園のようだった。
そして進んでいくと、"いつもの所"へ辿り着く、大きな木がそびえ立ち、傍らには湖が。その下で車椅子に乗り、何やら読書をしている男性が目につく。
1週間ぶりとはいえ、それでも衰えている様子が目につく。以前、ヘリの上から強襲型ドミネーターを放っていた人物とは到底思えない。
静かに、穏やかに、本を手に取る姿は全くの別人だった。
舞白はそーっと、木陰に隠れながら近づいていく。征陸は気づく様子もなく、静かにページを捲っていた。どうやらこれが、いつものお決まりらしい。距離はおよそ3mほど。背後に回ろうとした瞬間、征陸は目を合わせないまま口を開く。
「そこに居るんだろう、舞白ちゃん」
ギクッ!と体を跳ねさせれば、そっと木陰から立ち上がる。
「またバレちゃった〜」
へへへっと後頭部に手を当て、降参降参!と言う舞白に、穏やかな笑みを向ける。
舞白は征陸の傍らに向かい、近くのベンチに腰を下ろす。
「伸元は?」
「主治医の先生の所に行くって」
舞白しか姿がないことに疑問を抱いていたが、その答えを聞き納得する征陸。手に持っていた本を、車椅子の手すりに引っ掛けていた袋に入れると、視線を舞白に向ける。
舞白の相変わらずの姿に安堵するかの安堵する様子。その視線を、不思議そうに首を傾げる舞白。
「怪我は……してないみたいだな」
「いつもそればっかり、そんなに心配?」
「そりゃ、相変わらず一係でも無茶をしてるって聞くと、心配するに決まってるだろう?何でも、拳銃持ってた男に、丸腰で掴みかかったとか…」
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