睡蓮
外務省に勤める普通の女の子の舞白と、シビュラに潜在犯だと定められた宜野座。今はたまたま、刑事課の有期限の監視官補佐として傍に居れるのはいいものの、残り数ヶ月も経てば、それさえも許されない。
舞白は征陸に体を向き直すと、薄く笑みを浮かべる。
「ノブ兄に言わないでね、ここだけの話ね?」
キョロキョロと辺りを見回し、誰もいないことを確認する。
「正直ね、辛くてしんどい。刑事課に3ヶ月間、最初は良いなって思ったけど、一緒に過ごす楽しさを、幸せを知っちゃったから。……本当なら、もっともっと沼にハマる前に、外務省に戻りたい。」
舞白の本音が零れていく。
そんなことを口にするような娘ではないと、征陸はその姿に驚く反面、真剣に聞き入っていた。
「許されるなら……ずっと一緒に、そばにいて欲しい。でもそんなこと言えない、言ったら困っちゃうだろうし、ね?だから秘密なの。」
困り顔の舞白は、今にでも泣きそうだった。
その姿は、何ら変わらない。昔の幼い頃の姿そのままだった。
「………それに、……私は……」
舞白が何かを言いかけた瞬間、誰かが駆け寄る気配を感じ言葉を止める。征陸はその先の言葉を気にするも、現れた人物に目を向ければ、続きは深追いしなかった。
「なんだ、邪魔したか?」
2人が何やら話し込んでいた様子を察すと、申し訳なさそうにする宜野座。
舞白は笑顔を向けると、ベンチから立ち上がり、宜野座の横へと向かう。
「ノブ兄の悪口言ってたの」
「それは聞き捨てならないな……」
征陸の前で方を並べる2人。その姿を微笑ましく見つめる。自分の息子がその娘に向ける眼差しは、他とは違う。目の前の2人が、どうか幸せになって欲しいと、その光景を見ると余計に苦しく感じていた。
「親父、部屋から出るなって言われてるらしいな。何で守らない」
宜野座は征陸をじっと見据える。どうやら勝手に抜け出したらしい。
「ずっと部屋で閉じこもっててもな。午前の投薬も終わった、なら出ても良いだろう?」
「医者の言うことは守れ。ほら、戻るぞ」
ぶっきらぼうではあるが、父親の心配はしっかりとしている様子だった。宜野座は車椅子を押し始め、部屋へと向かう。
舞白はその2人の後ろ姿を、微笑ましく見つめていた。
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