Irises
目の前で楽しそうに話し込む2人の姿を、宜野座は微笑ましく見据えていた。まるで父娘のように、親しい2人。舞白も実の所、征陸の事は父親のように思い、接する。
両親の記憶がない舞白にとって、征陸は大切な存在であり、理想的な父親像だといつも思っていた。
「……ありがとな。
それにこうやって、わざわざ非番の日に2人揃って会いに来てくれるとは……もういつ死んでもいいさ」
冗談交じりで呑気に口にする言葉。宜野座はその言葉に眉を顰ませる。
「そんな事を軽々しく冗談でも口にするな。いつからそんなに弱ったんだか……」
「そりゃあな、こんな所にずっと居たら心は弱っていく。毎日自分のサイコパスと体に向き合う。投薬にリハビリ、医者との会話。余程、お前さんたちと、話していた方がいい薬になる」
一係にいた頃は、怒涛の毎日ではあったものの、充実した日々を送っていたと、ここに来てから余計考えるようになっていた。
「…じゃあ、休みの度に毎回遊びに来るね?」
「さすがに、毎回お前のお喋りに付き合わされるのは身体に毒だ」
「え!酷い!ノブ兄のいけず!!」
「だって事実だろう?それにお前は……」
ツーンと口を尖らせれば、ぷいっとそっぽを向く。それを隣で面白がる宜野座の姿はやけに幼くも見えてしまう。ガチャガチャと言い合う2人の姿。平穏なこの空気がやたら心地よく感じると、征陸はそっと目を閉じ、その空間に浸っていく。
そんな征陸の様子に2人は気づくと、目を合わせ、微かに口角を上げる。
「……お前さんたちが幸せなら、俺はそれだけでいいさ」
目を閉じたまま、口角を緩め、そっと呟く。
いつもより、やたら感傷的な父親の姿に宜野座はやけに心配そうだった。
「"伝説の刑事"が、今日はやけにらしくないな……」
宜野座の言葉に、そっと瞼を持ち上げれば、薄く笑みを浮かべる。目の前に並ぶ2人をじっと見据えると、小さくため息を吐き出した。
「俺の残りの人生は、お前さんたちの為にある様なもんだ。かと言って、何かしてやれる訳じゃあないが……。もうそれ以外、失うものは何も無い。願う事も……」
征陸は2人にゆっくりと手を伸ばし、そっと2人の手を優しく握りしめる。
舞白と宜野座は哀しさと、穏やかさが入り交じったような、複雑な心境で、征陸の目をじっと見つめる。
「……ただ、幸せになりますようにって。それだけなんだ、"親"の願いってものは……」
ギュッと握られる手に、舞白は何故か妙に緊張していた。理由は分からない。"親"と放たれた言葉に、嬉しさや様々な思いを馳せていた。
征陸と瞳、虹彩に吸い込まれるように、舞白はただ言葉を発せず、その優しい眼差しを見据えていた。
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