印象・日の入り
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後ろ髪引かれる思いで、施設を後にする2人。
そして向かう先は、狡噛兄妹が住まう海辺の家へ。
約10年ぶりに、宜野座は訪れるのであった。
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「アイツは?さっき戻ってきてるとか……」
リビングに無造作に置かれた、恐らくは狡噛の私物。先程、施設でも"帰ってきてる"と口にしていた舞白。
どうやら、久しぶりに帰ってきている様子だった。
「朝、出る時は居たんだけど…、出掛けたのかな。」
コトン、とアイスコーヒーをテーブルに置く。
宜野座はそれにそっと口をつけ、久しぶりに訪れた家を見回す。
舞白お気に入りの本棚、並べられた写真、カーテンもラグもあの頃と何も変わっていない。
本はやたら増えたようで、テーブルや床の一角に積み重ねられていた。
「霜月もたまに来てるんだろう?アイツが言ってた、図書館みたいだって」
「図書館なんて大袈裟。…まあ確かに多いけど……」
舞白も自分にカフェオレを作ると、宜野座の対面側へと座る。この部屋に宜野座が居る光景が懐かしくて、思わずニヤニヤとしてしまう。
「…またこうやって、ここで一緒にコーヒーを飲んでるなんて。なんか笑っちゃう……」
「懐かしいな。……昔なんて、こんなに小さくて……」
自身の手で、幼い頃の舞白の背丈を表す。
「"ノブ兄、ノブ兄。おままごとしよう?
もう帰っちゃうの〜?"って……可愛かったな」
「小さい頃から、ノブ兄はもう1人のお兄ちゃんだったから。お兄ちゃんに甘えられなかった分、全部ぶつけてた気がする……」
遊びに来る度に、遊べ遊べとせがんでは困らせていた記憶。でもそれに嫌な顔せずに付き合ってくれていたのは、紛れもなく宜野座だった。
「お兄ちゃんが大変だった時も、ほとんど来てくれてたもんね?私が1人にならないようにって。一緒にご飯食べてくれたり、眠るまでそばにいてくれたり。」
ふふふっと思い出しながらカフェオレに口をつける。すっかり大人になってしまった舞白、そして同じく歳を重ねた宜野座。あの頃を思い出すと、お互いに、寂しい気持ちを彷彿させる。
そうこう話していると、ぐぅっと鳴り響く舞白のお腹。ふと時計に目をやると14時手前を指していた。
「そろそろお昼ご飯食べようよ?もちろん、オートサーバーじゃないもので……」
椅子から立ち上がり、キッチンへと向かう。舞白の表情を読み取る限り、何か作っていたんだろうと察す。なにやら、嬉しそうにニヤニヤとしていた。
キッチンの小鍋に火をかけると、室内に良い香りが漂う。その匂いに覚えがあった。
「昨日、残業もなかったし、帰ってきてカレー作ったの。お兄ちゃんと。」
昔から大好物だという、兄手製のカレー。小さい頃は何かある度にいつも食べていた気がする。"あの2人"が、キッチンで肩を並べて料理をする姿が目に浮かぶ。年月は経ったとしても、2人は兄妹。いつまでも仲が良い2人を容易に想像できる。
「ニンジンは食えるようになったか?」
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