印象・日の入り
「……嫌い」
「好き嫌いはダメだ、少しは食えよ」
「私もう子供じゃないから!食べるよ、少しくらいなら……」
と、いいつつも器には一欠片のみしかニンジンを入れず。相変わらずの子供のような行動に、思わず宜野座は笑みを零す。
テーブルに並べられた昼食。
くだらない、他愛のない、どうでもいいジョークで笑い合える。この瞬間が愛おしい。失いたくない時間だった。
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過ぎ去っていく愛おしい時間。
2人でソファで肩を並べ、読書をする時間も、急に観たいと言い出した映画を見て涙する舞白、それをクスクスと笑う宜野座。買ってきたケーキを嬉しそうに口に運ぶその姿、ひとつひとつが、その空間を包み込む心地よい潮風も。過ぎ去って欲しくないと思えば思うほど、あっという間に過ぎていく。
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美しい夕日、あと少しで日の入り。
2人は浜辺へと移動すれば、水平線を横目に散歩していた。2人の間に少し空いた空間。昔はこの間にダイムの姿があった。
「今度はダイムも連れて来ようよ?……あんまり長い時間散歩は出来ないだろうけど……」
「あいつも歳をとったからな。…でも、またこの海を見せたい」
すっかり老犬となったダイム。今は公安局ビル内の宜野座の部屋で穏やかな日々を過ごしていた。昔のように、やんちゃに飛びかかることはなくなったダイムの姿を見ると、少し寂しい気もしていた。
「しかし、やっぱりいいなこの場所は。毎日この景色が見れるなんてな」
そう言い放つ宜野座の横顔を眺める。
すると、昔の光景そのままが脳裏へと思い出される。
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「「毎日この景色が見れて羨ましいよ」」
あの時と同じ光景。
幼い舞白が口にする言葉は……
「「毎日海が見れて楽しいよ!
大きくなってもあのお家にずっといたいんだ!
それでいつか大きいワンちゃんを飼って
かっこいい王子様と暮らすの……」」
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横顔から視線を逸らせると、足元へと目を向ける。
「……王子様かあ…」
その場に立ち止まると、宜野座は不思議そうに舞白を見つめる。
「何か言ったか?」
「……ううん、なんでもないよ?
ちょっと入ろうかな〜」
その場でサンダルを脱ぎ捨て、海へと向かって歩き出す。
ひんやりと冷たい海水に足が包まれ、気持ちのいい潮風に包まれる舞白。
「コケるなよ?それに、さっき服を汚して着替えたばかりなんだから……」
「汚したわけじゃないし、あれは事故だよ?」
舞白は珍しく、花柄のミニ丈のワンピースを着ていた。先程まで着ていたTシャツとデニム……、映画を見て感極まった舞白は傍らに置いていたコーヒーに気づかず、派手に零してしまったのだった。
「たまにはいいでしょ、こーいう服も?もう何年も前の服だけど……」
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