ハーメルン
ゼロと師
序章 深き森の戦い・後編

 傭兵は、タバサに先を越されないうちに小屋のチェストの中を探る。
 時を戻す前は紋章石を持っていかれた(もちろんタバサが悪いわけではないが…)ことで最悪極まりない撤退戦になったので、先に宝を確保しなければならない。

(…あった。紋章石と『破壊の杖』。…それにしても、杖にはとても見えないな…)

 ベレトが『破壊の杖』に触れると、左手が光った。…武器屋の時と同じように武器の使い方がわかった彼は顔をしかめた。

(…なんとも言えない感覚だ。知識をいきなり頭に叩き込まれるのは勘弁してほしいんだが…)

「あー!ちょっと、見つけたんなら報告しなさいよ!」

 ルイズはベレトを指さしながら注意した。

「ああ、とりあえず自分が持っていてもいいか?」

「なくさないでよ?」

「なくさないなくさない」

 ルイズとベレトが話していると、外からキュルケの悲鳴が聞こえてくる。
 屋根を吹っ飛ばしながら現れたゴーレムは、タバサやキュルケの魔法にもびくともしない…。

「…撤退」

 タバサが風竜に乗るのを見届けたベレトは、ゴーレムの方へ進むルイズに立ちはだかる。

「…そこどいてよ。あいつを倒せば、誰もわたしをゼロなんて呼ばなくなる!!
誰かに、認めてもらえるの!邪魔しないで!!」

「……ルイズ、君はなぜ戦う」

「……プライドのためよ!何時も馬鹿にされた人間の気持ちなんて、あんたにはわかんないわ!!」

 ベレトは目をそらさない。

「…自分は、君が誰かのために涙を流せることを知った。自分が泣けたのは父親の死に際くらいだったから、正直言って羨ましいな」

「…なに言ってるのよあんた…。なんの話?」

「…目の前の傭兵が君のことを認めてるって話だ。ルイズ、自分は君のような人間の力になりたい。
たとえ君が世界の敵になろうが、それを全力で肯定する!」

「…うん、半分も理解できなかったわ!!世界の敵とかどうとかは置いといて……認めて、くれるの?
なにもできないのに…ゼロなのに…?」

 ベレトは力強く頷いた。人生を諦めるには、まだルイズは若すぎる。なにもできないなんて悲観する必要も、本当はないはずだ。

(自分にできるのは、彼女が自分の道を見つけるまで守り続けることだ。)

 ベレトは天帝の剣を取り出し、その窪みに紋章石を装着する。
 紋章石から溢れるエネルギーが刀身をオレンジに染め上げたのを、ルイズは呆けた顔で見ていた。

「…その剣、なに…?」

「…ちゃんと見ているんだ、ルイズ。…君の呼んだ使い魔がどれだけの力を持っているのかを!!」

 じゃらりと剣が分割され、ベレトは剣を振り下ろす。
 背後から襲い掛かった刃は、ゴーレムの右腕を両断した。腕を破壊されたゴーレムは、ベレトを脅威として認識する。

「う、うそお…!?見た、タバサ!!あんな武器見たことないわ!
ゴーレムの腕を斬り落とせるなんて、凄い切れ味よ!?」

 上空から様子を見ていたキュルケは興奮していた。
 タバサの方も興味があるのかじっとその戦いを見守っている。

「さて、次だ」

 ゴーレムの鉄拳に、ベレトは天帝の剣を思い切り振り下ろす。

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